2023年度 東京都精神科医療地域連携事業 症例検討会


2023年9月15日(金)17:30〜18:35 昭和大学附属烏山病院 中央棟4F 集会室  *ZoomにてWeb配信

司会進行 横井 英樹(昭和大学附属烏山病院/昭和大学発達障害医療研究所 臨床心理士。以下、横井)

テーマ『発達障害について』

パネルディスカッション 

佐賀 信之 昭和大学医学部 精神医学講座 兼任講師

近藤 周康 昭和大学附属烏山病院 総合サポートセンター実務責任者 ソーシャルワーカー

横井:お待たせいたしておりますが、これからパネルディスカッションを始めたいと思います。では、ここからは、本会の事務を担当しております、烏山病院総合サポートセンターの実務責任者でソーシャルワーカーの近藤周康さんにもご出席いただきます。よろしくお願いします。

近藤 周康(昭和大学附属烏山病院 総合サポートセンター実務責任者 ソーシャルワーカー。以下、近藤)よろしくお願いします。

横井:それでは、ご覧いただいている皆様のほうからご質問を頂戴したいと思いますが、いかがでしょうか。事実関係の確認とか、臨床的に感じたこととか、いろいろお伺いできればと思います。どうでしょうか。ご発言の際は医療機関名とお名前を言っていただきたいと思います。

近藤:じゃあ、私のほうから一つ二つ質問させていただいてもよろしいですかね。ご家族様が、統合失調症のご病気があるお母様と、ASDと思われる大学教授のお父様ということですが、後半の先生のお話からですと、おばあ様が割にその間をつなぐような形で情緒的な交流をされていたというような感じもあるんですが。お母様は統合失調症という背景がありますが、特にお母様との間で、普通、親子関係で形成されるような愛着だったり、そういう情緒的なかかわり、あと、お父様、おばあ様のかかわりを含めて、ご家族とのかかわりというのはどんな感じだったのか、わかる範囲で教えていただければと思います。

佐賀:お答えします。人が愛着関係を結んでいくというのはほんとに小さな赤ちゃんのときからスタートしていくんですが、この人のお母さんが自分の子供に十分手をかけられたかというと、統合失調症を発症してしまったのが妊娠前後で、自分自身が病気になってしまったために十分に子供に関心や愛情を注げられない。お薬の治療で改善した後も、少しのことでお母さんが疲労してしまうとかパニック状態になってしまうということがあったので、子供のことを十分に構えない。

 おばあ様に関しては、自分の娘であるお母さんのことをフォローするのに精いっぱいで、もちろん孫であるこの当事者の男性のことも見るんですけれども、十分に愛情をかけられたかというと、おばあ様自身もそこはちょっと十分でなかったというのをおっしゃっている。

 お父さんは、後々は子供が大きくなってからはかかわってくれるようになるんですけれども、この方が赤ちゃんのころ、幼少時のころは、自分の妻が病気になって統合失調症になってしまって、ご自身もASDなので、どのようにかかわっていったかよくわからないというところもあって、当事者の男の人が生まれたぐらいで離婚になってしまっています。だから、父親との関係性は幼いころは不十分であったと思います。

近藤:ありがとうございました。私なんかはサポートセンターで特に入院のご相談を受ける部署ですが、発達障害で入院のご相談ということで受けるケースに関しては、今回の症例のような暴力を伴う。ご本人様は自尊心が損なわれて自己肯定感が低いと思うんですが、表現のしようがなくて身近な家族に当たるというところでの問題行動を抱えた方というのは非常に多いです。

 先生もご説明されていたように、警察介入、緊急時の場合、やむを得ず対話はするけれども、家族以外には接触がよかったりして、なかなか緊急でも対応がとれないというところは、今回ケースを聞いていて思い当たる節があるかなと思ったところがあります。

 家族の支援というところではかなり必要な方だったのではないかと思います。なかなか難しい部分もあったと思うんですが、疲弊しているご家族とご本人さんがセパレートできるような機会が早いうちにあったほうがよかったかなというのは個人的に思いますけれども、非常に難しさ、ご家族のご苦労もうかがえるかなと思います。

 基本的な質問で申しわけないです。この方のWISCで、子供のころの心理検査と成人での心理検査は、不勉強なところで申しわけないですが、違いが、WISCとしては普通レベルが成人に近くなってから低く出たと、境界知能というふうに言われた。こういう有意差というのは結構出るものなんでしょうか。

佐賀:子供のころは神童で大人になったらただの人というのはよく言われるので、子供のころのWISCとかWAISの値が成長とともに低くなってくる、落ちついてくるということはあると思うんですけれども、この人の場合はその幅が大きいなというのが一つ。

 あと、WAISの検査の中には、学校で勉強してきた知識、世間の中で学んできた常識を問う部分もありますので、この子の場合は学校に行けていなかったというところがあるので、そこも大きくなってからの検査で値が下がるという部分にはなってくるかなとは思います。あと、全体的に低いというところはあるんですが、ADHDの方とか、WAISの検査中に集中できなくて値が下がるということもありますし。

 私としては、この人が好きなものとはいえ、独学でC言語といったようなプログラミング言語とか、新しいPCやタブレットを自分でどんどん学んで組み立てたり、プログラムして独自改造したりというふうなことが非常に優秀にできていたので、ASDの方もありますが、ADHDの方の特定分野にすごく伸びているという部分なのかと。それでも全く全部が低ければそこまでできないので、数値よりはもっと能力が高いのではないかという印象を持っております。

近藤:C言語とか難しいものも理解できるという部分を聞くと、いろいろ幅広い部分を持った方なのかなと感じました。ありがとうございました。

横井:ありがとうございます。ご覧いただいている方の中で、いかがでしょうか。

松村様:一つ質問をよろしいでしょうか。

横井:お願いします。

松村様:渋谷区医師会の松村(美由起)と申します。今日は大変貴重な症例報告をありがとうございました。外来を拝見していますと、通常の外来でも軽い発達障害かなと思われる方はある程度いらっしゃるような気がします。そういった方で、社会に生きづらさを感じていたり、就業が困難であったり、転々と離職をしたりという方がいらっしゃって、そういった場合にそれを軽くスクリーニングするようなものとか、そういったものがあれば教えていただければと思います。基礎的なことで申しわけありませんが、よろしくお願いいたします。

佐賀:スクリーニングということは、簡単な心理検査みたいなものということですか。それとも、ぱっとお話しした印象の中からどう見つけるかということですか。

松村様:心理検査という意味です。

佐賀:例えば外来の待ち時間でもやっていただけるような、本人にマルをつけてもらうといったようなものですと、ASDの場合、AQみたいな、4問中のどれが該当するというマルつけ、あとCARSといったADHDの検査なんかも外来の待ち時間中にマルつけしていただけると思うので、そういったものでスクリーニングすることは可能かと思います。そういったものは事前に説明はしておかないと。保険点数もとれてしまうので、黙ってお金を取るんだったらそれはちょっと気まずいので、事前説明の上でしていただいてもいいのかなと思います。

松村様:ありがとうございました。

横井:ほかの方はいかがでしょうか。――もしないようでしたら、私のほうから一つ伺いたい。

 治療方針として、他者とつながりたいとか共感したい、社会の役に立ちたいということですね。実際には、それなりに共感性があったり、つながることがどういうことをもたらすのかとか、そういったことが具体的に想像できているかどうかということが非常に大きいと思うんです。

 世の中ではこのように言われている、これが正しいことであるというような、どちらかというとちょっと頭でっかちというか、実態はわからないけれども、これがあると人らしく生きられるみたいなことが治療目標になっていて、中身はあまり追いついていないような、そんな印象も若干あるんですが。社会に役立つとかって、僕自身が20代の若いころからあんまり考えていなかったせいなのかもしれませんが、その辺の温度差というか、ずれというか、診察の中で感じられたり、言うことが大きいなとか、そういったところはいかがでしょうか。

佐賀:もちろん、うまくやりたいというんだったら、どうやってうまくやっていくんだとか、社会に役立つというのは具体的にどういうことなんだみたいなところは心の中では突っ込みをしていますけれども、そういった志を持っているというところをプラスに評価してあげて、現実的な部分を提示して実行していってもらう、受け入れていってもらうということが大事なのかなと思います。志は大きくてもいいけれども、実際の行動は一歩ずつみたいなところかなと思います。

横井:ありがとうございます。ほかはいかがでしょうか。ぜひ聞いていただければと思います。

近藤 (麗子)様(松沢病院 患者地域サポートセンター  看護師。以下、近藤(麗子)):

 松沢病院の患者・地域サポートセンターの看護師の近藤(麗子)と申します。本日はありがとうございます。

 ペアレントトレーニングについてちょっと出ていたと思うんですが、どういった具体的なトレーニングをされたりするのかなというところが気になりましたので、その辺のところをご教示いただければと思います。

佐賀:ペアレントトレーニングは、そういうふうなプログラムやコースをお持ちの病院さんというのもあると思うんですが、当院ではADHDの成人向けのプログラムはあるんですけれども、スタンダードで提供しているプログラムは特に用意していないので、最も基本的な、当事者さんが持っている障害がどういうものかということをご家族の方にも理解していただく。

 その理解を前提に、どういうふうに振る舞うとご本人が受け入れやすいかとか、親御さんが納得しやすいか、当事者とお話しするときには当事者の立場に立つんですが、ご家族の方、親御さんとかとお話しするときには親御さんの立ち位置に立って、親御さんの苦労をねぎらうとか。ねぎらうというのは、元気を出してもらわないと。医療関係者や支援者よりも長時間接するのが親御さんなので、親御さんを精神的に支援して、なおかつ適切な振る舞い方を伝えることによって、間接的に当事者さんをいいほうに持っていくということが必要になるかと思います。

 外来診療中で時折親御さんがいらっしゃるという形で、ほかの方も含めて、そういうふうな親御さんのかかわりが多いので、親御さんがいらっしゃったときに。

 ペアレントトレーニングといっても、ほかの病院さんのように、コースになって、こういう段取りで、毎回全部、何回やっていますよというのはできないので、お子さんの場合に、一般論ではなくて、個別の事例に即して障害理解を深めていくという形で、親御さんの認知とか振る舞い方をいい方向に変えていくというのが、私なりに日常診療の中で行っているペアレントトレーニングということになります。

近藤(麗子)ありがとうございました。

横井:デイケアのご家族への支援ということもつけ加えさせていただきます。デイケアで発達障害のプログラムをやっていて、ご本人だけではなく、先ほどもあったように一番長くご本人と接するのがご家族ということで、家族を支えるということも非常に大事なポイントだと思っております。

 烏山病院のデイケアに関しては、2013年に発達障害の家族会というのができまして、そこで月に1回世話人が集まっていろいろ会報誌を発行したり、年に2回、家族のつどいといって、ご家族に対する心理教育的な内容とか、そういったことを定期的にやることによってご家族に発達障害の理解をしていただく。同時に、家族同士のつながりですね。家族の懇談会、家族同士が話し合ってお互い共感し合うということとか、大変さを共有するということも、直接的なペアレントトレーニングではないかもしれないけれども、家族がご本人に対するかかわりが少し楽になったりするということも非常に大切な点だなと、烏山病院としては考えております。

 ちょっと補足させていただきました。

 あと数分あるんですが、ほかにはいかがでしょうか。最後に一つか二つ。――なさそうでしょうか。

近藤:地域連携といったところで、行政と、あるいは地域の事業所でもいいんですが、連携というのはどんな感じで展開されているか。これはどうですかね。

佐賀:この症例に関してはですか。

近藤:そうですね。家族も大分疲弊していると。措置入院とか、経過もちょっとあると。行政のほうからも、今、措置入院者の退院支援というような時代でもありますので、そういうフォローアップとか、問い合わせ等、先生のほうであったり、訪問看護とかも単身で入れたということもあるんですが、グループホームで計画相談だとか、地域の方々と先生との意見交換とか、そういうところはわかる範囲でいかがですか。

佐賀:行政さんとのかかわり。この方が住まれている区の障害者支援の担当者の方とか、作業所とか、そういった形のネットワークみたいなものは今現在構成できていると思います。ただ、それはどんな当事者さんに対してもぱっと動くようなシステムかというと、今現在では、どちらかといえば、それぞれに熱心で一生懸命な方々がいらっしゃるのでそれでつながれているというところがあるので、どんな方でもそういうふうにつながれる組織間でというのができると、本当はそれが理想かなとは思います。

横井:ありがとうございました。ほかはいかがでしょうか。Zoomでご覧いただいている方の中から最後にお一つ。――なさそうでしょうかね。

近藤(麗子)すみません。またいいですか。

佐賀:お願いします。

近藤(麗子)この方は知的には普通レベルのことも理解ができそうな方だったと思うんですけれども、知的に低い方も当院で結構発達の方でいらっしゃったりして、長期的な展望はもちろん、現状の理解もすごく難しかったりするんですが、知的なところに問題がある場合にはどうしたらいいのかなといつも困っているんですが、その辺はいかがでしょうか。先生としてどのような声かけをしているとか、かかわり方とかでもいいんですが。

佐賀:お知的な困難が生じている方といっても、発達障害ではなくて、単純に知的障害の診断名がついている方もいらっしゃいますが、例えばIQが20を切るぐらいで会話が成立しないという方になると、また別のテクニックが必要になるかと思います。

 例えばIQが50、60でコミュニケーションがとれるみたいな方の場合だと、こちらからの説明のレベルをわかりやすく簡単で明瞭な形に落とすということと、人によっても違うでしょうけれども、その人の中にも、優しさだったり明るさだったり、何かしらいいところがあると思うので、そこを取っかかりとして介入していく。

 時間はものすごくかかるでしょうけれども、この支援者さんの言うことは聞きたいとか、わかるというふうな関係性をつなげていって、なおかつ、その人1人だけが窓口になるとそれもまた困るので、それを取っかかりに、ほかの人ともつながれるよという幅をゆっくりゆっくり広げていって、環境や社会に対する適応力を上げていくということが一つの方法ではないかと思います。

 暴れて物をぶっ壊す子だったら、のんきにはしていられないかもしれませんけれども、そういうのが基本的なかかわりの方針ということで考えております。その子なりに理解できるやり方で、その子なりのいいところに介入していって、1人の人とつながりをつくって、それが1人ではなくて、2人、3人と広がっていくように、かなりの長期戦でやっていくという形です。

近藤(麗子)ありがとうございました。

横井:今の点で、またデイケアでの取り組みを若干説明させていただきます。

 デイケアのほうでは、非常に知的に高い群のグループ、仕事もしているような方のASDのグループもあれば、これから仕事を目指す知的におくれのない方のグループ、そしてもう一つが知的なおくれもあり、こういった知的なおくれの方は就労継続支援B型事業所を目指すような方も多いんですが、このような方たちでグループを行っています。

 

 知的障害のある方のグループは、これはこれで非常に有効性を感じておりまして、とにかくデイケアに来る、そしていつもいる同じような方と一緒に過ごすグループというのをつくっております。それによって、年単位かかる方もいらっしゃいますが、社会に出て、ずっと家で家族だけというところではない経験を積み重ねたり、20、30歳になって外でラーメンを食べたことがないなんていう方もいらっしゃるので、みんなでグループでおいしいラーメン屋さんにラーメンを食べに行くというような、新しい経験を積んでいただくみたいなことをデイケアのプログラムとしてやっています。似た方で集まってグループをつくることは、それなりに効果のあることではないかと我々は考えております。ご質問、ありがとうございました。

 

 そろそろお時間となりましたので、パネルディスカッションを終了させていただきたいと思います。ご質問やご意見をいただいた方、ありがとうございました。事例発表をいただいた佐賀先生、ありがとうございました。

 本会の次第を全て終了いたしましたので、これをもちまして、2023年度 東京都精神科医療地域連携事業 症例検討会を閉会いたしたいと思います。本日ご参加の皆様には本会のアンケートをお配りしてありますので、ご記入の上、Zoom参加の方は、当院総合サポートセンターへのメールもしくはファクスでご送付いただければと思います。

 本日はご参加いただきましてまことにありがとうございました。Zoomでご参加の方はそれぞれご退室いただければと思います。ありがとうございました。

(終 了)