2022年7月9日(土)14:00〜16:04 昭和大学附属烏山病院 中央棟1F リハビリテーションセンター
司会 太田 晴久(発達障害医療研究所 所長 医師。以下、太田)
演題②『ピアサポートプログラムの紹介〜治すから治し支え合うデイケアへ〜』
横井 英樹 昭和大学附属烏山病院 心理士
横井 英樹(昭和大学附属烏山病院 心理士。以下、横井):
現時点で予定よりも16分遅れで進んでいますので、皆さん今日は急な予定変更が起きます。3時半に帰れると思ったら、そうはいきませんので、なるべくそこに終わるようにしたいと思います。
私のお話は、先ほどの最後のスライドにあったような、発達障害のいろいろなプログラムをやってくる中で派生的に出てきたプログラムについてお話をしたいと思います。キーワードとしては「ピア」とか「ピアサポート」という言葉ですが、もしかしたら「ピア」という言葉をご存じない方もいるかもしれません。日本語では「仲間」とか「同輩」とか、要するに同じような立場とか経験をしている、そういった方たちで支え合う、そういうお話です。先ほどの発達障害のASD、ADHDのプログラム自体は同じ障害特性グループでプログラムをやっていくんですが、それだけでは終わらないという、そういったお話になるかなと思います。
まず背景としては、成人発達障害の支援が広がってきているということです。烏山病院でつくっているASDの20回のプログラム。こういったプログラムは全国でそこそこ、そこそこといってもまだ30機関ですね。日本デイケア学会のデイケアを持っている医療機関の数は多分500~600あるんですが、その内の5%ぐらいです。2013年、2014年、8~9年前にも5~6%だったんですが、2~3年前に調査したら5~6%でした。ほとんど増えないままずっと来ています。とはいっても、こういったプログラムをやると就職できる人が増えてくることも結果として出ています。
課題としては、発達障害専門プログラムは20回で終わってしまうんですね。平日来たら半年間。土曜日、月2回だと10カ月間ぐらい。終わったらどうするか。せっかく仲よくなった仲間とどうやって過ごしていこうかというと、OB会、OG会といったらいいんでしょうか、終わった後も定期的に集まろうよということをやっていました。これもずっと医療が支え続けるということになってしまいます。地域に居場所があればいいよねということが一つ課題としてあります。
一方で、各地域に当事者会というのはあるんですが、これは医療と結びついていない、自分は発達障害特性があるなといって誰かが発起人になったり、たまたま集まったそういう人たちで運営していく。ただ、玉石混交なので、どういったグループが良いところなのかとか、自分たちだけで運営するのは結構難しい、そんな課題があったりします。こういった背景の中で今日のお話です。
発達障害のプログラム、ASD、ADHDのプログラムに出た方に2016年にアンケートをとったのですが、皆さんこんな答えです。「友人・知人に支えられていると感じる」という方が7割ぐらいいる。それから、「居場所があると感じる」、とりあえずここに来ると安心する。それから、何より「自分らしく生きられるようになった」と答えてくださる方がいるというのは、我々としてはとてもうれしい結果でした。
そもそも、ASDとかADHD、発達障害のプログラムの目的として我々が挙げているのが、この五つです。下の二つ、「お互いの思いや悩みを共有する」「同質な集団で新たな体験をする」、同じような特性を持っている仲間で新たな体験をする。こういうのをさっき言った仲間同士の支え合いという意味でピアサポートと呼んでいますが、これがとても大事だと思っています。
これは、一般社団法人発達・精神サポートネットワークが2016年に厚労省の研究でやった「発達障害者の当事者同士の活動支援の在り方に関する調査報告書」というのがあるんですね。要するに、当事者会や当事者が集まるような会をいろいろ調べた結果、わかってきたことがあると。全国の発達障害者支援センターのアンケートです。各都道府県に1個以上あります。ほとんど100%近い、78機関中77機関は、こういった当事者会は本人たちにとってとても大事だし必要だと答えている。ピアサポートの場として必要とか、交流の場や居場所として必要という回答がありました。
一方、いろいろ調べてみると難しさもあって、当事者会を維持していく難しさとして、五つのうちの四つだけ挙げています。コミュニケーションが難しいという問題。それから、障害特性が多様である。例えば発達障害とかメンタルヘルスで困っている、発達障害だけではなくていろいろな疾患の人がまじってきたりする。そうすると、お互い困っていることが微妙に違っているんですね。同じ共通項で集まったと思ったら、結構ばらばらな人たちの集まりだった。さらに、そういったニーズが違っているということですね。
さらに、運営が当事者やその家族で行われていたりするので、誰か特定の人にすごく負担がかかってしまう。そういった問題がありましたという調査結果がありました。みんなで集まりたい、どこかそういった居場所が欲しいというニーズはあるんだけれども、参加すること、参加を維持していくことが難しい。
ピアサポートを活用した居場所を構築するためには何が必要かですが、烏山病院では2008年から外来をやっていますが、今日も午前中やっていましたが、OB会とかサークル活動は2011年ごろから力を入れてやっています。
ここの活動は自助グループ的なものが10個以上存在しているんですね。実は今日もここで2時ちょっと前まで活動していたグループはマインドマップサークルというところで、マインドマップを説明し始めると大変なのであれですが、2013年から活動し続けています。この3年間も、コロナになってからもずっと月1回はオンラインでみんな集まって、そういう活動をしているんですね。
こういった自分たちで集まる習慣ができたり、たまたまとても気の合う仲間と出会えるとずっとつながっていられるということも、我々としては確認できています。
烏山病院でやっているOB会は一体どうなんだろうと見たときに、ここでやっているOB会は、もう一定割合、ASD専門プログラムの20回とかADHD専門の12回のプログラムとか、ある程度一緒に過ごしてきているし、お互いどんな人かわかり合えているので、ある程度問題ないかなと思います。
ただ、難しさとしては、運営するということ。会をいつやろうかとか、場所をどうするとか、日時の設定とか、そういったところのコミュニケーションにはまだ課題があります。
それから2番目の問題、障害特性が多様であるということ。基本的にはASDグループ、ASD特性が強い人たちのグループ、それからADHD特性が強いグループで、ある程度診断のコントロールができている。さらに、プログラムをやることで自己理解が深まっているので、実際に障害の特性が強い人ほど自分は違うと思っているというところが大分解消されてきます。
それからニーズがそろっている。烏山病院のプログラム自体が、土曜日は仕事をしている方たちが集まるし、平日はこれから仕事をしようとする人たちが集まるので、非常に好条件がそろっている。あとは、病院内でやっていることで、我々にいつでも相談できる体制が整っていることもいい面として機能しているかなと。
医療機関の中で実施するという限定条件ではそれなりにうまくいくんじゃないかと考えていました。ということで、さっき出てきた厚労省の研究をやりました。発達障害の専門プログラムが終わった後、今のところASDのプログラムの後にやることだけを想定していますが、ピアサポートプログラムをつくってみようと。最終的には自立して自助グループ化してもらうといいなという研究です。先ほど紹介したマインドマップサークルは、我々の知らないところで勝手に活動しているという素晴らしい状況です。
ピアサポートプログラムの目的としては、ピアサポートがより活性化するためのスキルとか工夫にはどんなことがあるのか、グループを運営していくにはどんなことを知っているといいのかなどを明らかにすることが一つの目的です。もう一つは、参加するメンバーが自主的に自分たちでグループを運営していくためにどんなことができるか、そういったところを目指すためのプログラムをつくりました。
先ほど紹介したような自分たちでやっているOB会にアンケート調査をしたり、平日に来るメンバーに全部で11回、ピアサポートプログラムを実施して、どんなことが必要かとか、ピアサポートを促進するのはどのような要素か、ピアサポートを邪魔するのはどんなことかなど、いろいろな会を設けて練習して、最終的には烏山と小石川東京病院で実際にプログラムをやってみました。
その結果、ASDのプログラムを卒業した後に参加する全5回のプログラムを作成し、「ピアサポートとは」とか「きくスキル」、「語るスキル」、こういったテーマでピンポイントに焦点を当てて掘り下げてみました。あとは、スタッフは見ているだけで、メンバーだけでグループを実施してみる。そんなことを体験する5回のプログラムをつくりました。
その中で出てくる、お互いにピアサポートをするときのテーマがいろいろあります。好きなことを発表するとか、自分たちが役に立つ楽しめるプログラムなら何でもいい。それから、「新しい担当とか主治医がかわったときにどういうふうにつき合えば良いか」とか「考えをうまく伝えるには」、「コロナでどうやって過ごすか」など、今、平日のデイケアでは二つ自助グループが進行しています。
今後については、自助グループの運営をどんなふうにサポートしていくか。最終的には病院から離れてそれが自立していけば良いのですが、そこはまだまだ課題があると思います。それから効果検証をする、あとはスタッフ用のマニュアルをつくる、そんなところを整備していかなくてはいけないと思います。
この先は少し大きな話も含めてですが、ピアサポートにはいろいろなレベルのピアサポートがあります。ピアサポートを非常に熱心にやっている研究者の論文によると、インフォーマルなピアサポートは、デイケアの後、一緒にお茶を飲みに行ったり、仕事の後に飲みに行ったり、そういったお互い仲間同士で支え合うような、友人同士みたいな関係です。
それに対してフォーマルなピアサポート。今回我々がつくったのはここに位置するかなと思っています。ある程度守られた枠組みの中でお互いを支え合うようなピアサポートプログラム。ここで土曜日にグループをやると、そのまま皆さんお昼ご飯に行ったり、午後にやっているOB会だとそのまま飲み屋に行ったりというのは実際に起こっているので、この辺は一部できているところもあるかなと思います。
一方で今、厚労省とか行政では、仕事としてのピアサポートを広げようとしているところもあります。こうなるとより専門性も上がってくるのでちょっと違うのですが、我々としてはこういったところを強化していきたいなと。行政機関とかはピアスタッフの養成研修を、特に世田谷はこの1~2年で非常に力を入れ始めています。我々のピアサポートプログラムに参加した方の数名は、このような研修に出始めています。
これはもう仕事になるので、ピアサポートの専門性が上がるとどうなるかというと、医療専門職と変わらなくなる部分も出てくるということです。研修テキストが2018年につくられて(平成30年度 厚労科研、障害者政策総合研究事業「障害者ピアサポートの専門性を高めるための研修に関する研究」 基礎研修テキスト)、今後どんどん行政機関とか各自治体とかがやり始めるということになってくると思うんですが、実際はまだあまりやられていないみたいです。例えば、条件として最低6カ月間、精神的・感情的に安定していること。危機状況にある人をケアすることを理解し、支援する役割を遂行する能力。お互い理解し合って支え合おうよというところから、かなり要求されるものが多くなってきます。
こういった流れがあることもぜひ知っておいていただければと思います。専門職は偉そうな立場で偉そうなことを言うんですけれども、デイケアで見ていると、メンバーさん同士が話していることのほうがよっぽどお互いの支えになるということが起こっています。
今日のまとめです。ピアの力が非常に注目されているということは言えると思います。我々としても、発達特性を持つ人同士のピア機能がとても有効だということは一つの発見でした。ピアグループが活動しやすい環境の整備が必要で、当事者グループを支えるためには費用をどうするかとか場所をどうするかというのは行政的な課題にもなっている。
ピアだけで運営する難しさもあります。ピア活動と言いながらも専門職のサポートを受けたり、先ほどの研修を受けた方がいろいろな当事者グループを支えたりということも仕組みとしてはあり得ると思います。いずれにしても、自分が誰かを支えられるとか、自分の経験が誰かの救いになることはとても大事な自己理解だと思います。
一方で、職業としてのピアスタッフということは、これまでは友達関係だったのが、ピアスタッフとして関わると友達としては関われなくなるという難しさがあるので、こういった課題も言われています。あとは、そもそも雇用する場の確保です。誰が雇ってくれるのか。さっきの障害雇用の話とも重なる部分がありますが、そういったところが課題としてはまだまだ大きいのが現状だと思います。
いずれにしろ、多様なピア活動がいろいろなところで広がり始めていることをお伝えできればということで、お話を終わりにしたいと思います。ご清聴、ありがとうございました。(拍手)