令和4年度 昭和大学附属烏山病院 春季公開講座


2022年7月9日(土)14:00〜16:04 昭和大学附属烏山病院 中央棟1F リハビリテーションセンター

司会 太田 晴久(発達障害医療研究所 所長 医師。以下、太田):

 それでは定刻になりましたので始めさせていただきます。昭和大学発達障害医療研究所の太田と申します。本日はお休みの中、足を運んでいただきましてありがとうございます。

 烏山病院では公開講座がありまして、この時期と秋と年2回やっていて、私も以前何回かお話しさせていただく機会もあったんですが、今回もお鉢が回ってきてお話しさせていただきたいと思っています。

 

 ざっくりと「発達障害」というテーマなんですが、その中でも特にお仕事になるべく焦点を当ててお話しさせていただきたいと思っています。私の話の後に、デイケアのプログラムを幾つか新しいものをつくっておりますので、そのご紹介として、横井がピアサポートプログラムについてのお話と、水野が汎用性ADHDプログラムについてのお話という形で、3本立てでやらせていただきたいと思います。

 時間的な流れとしては、私が40分ぐらいお話しさせていただいた後に、5分程度質疑応答の形で皆様の質問に答えさせていただいて、その後、15分、15分お話しする中で同じように5分程度の質疑応答があって、3時半に終了したいと思っておりますので、よろしくお願いします。

 公開講座は、通院されている患者さん、ご家族の方はもちろんなんですが、地域にお住まいの方等にも広く公開をすることでオープンな会になっております。私の話も多分、通院している患者さん、ご家族の方は知っていることも多いと思うんですが、そもそも発達障害って何というお話の後に仕事のお話をさせていただきたいと思います。

 マスクをつけながらしゃべると既にもう暑くて頭がぼうっとしてくるところもあって、皆さんもそうじゃないかと思うので、もしちょっと暑いとか体調が悪い場合には途中でも遠慮なく抜けて休憩していただいて結構なので、体調第一でやっていただけたらと思います。よろしくお願いします。

大人の発達障害について

太田 晴久 発達障害医療研究所 所長 医師

太田 晴久(発達障害医療研究所 所長 医師。以下、太田):

 「大人の発達障害について」という題でお話しさせていただきますが、その前に、こちらの烏山病院をご紹介させてください。烏山病院は昭和大学の附属の病院で、精神科の病院です。これは実は珍しいんです。いわゆる精神科の病院はもちろんたくさんあるんですけれども、精神科の病院が大学附属としてあるのは非常に珍しい。こちらの烏山病院がまず一つあるのと、あと埼玉ですかね。関東はそんなものだと思います。病院を持っている大学附属という点では比較的特色のあるのが烏山病院で、正確には忘れましたが、大分古い歴史のある病院です。

 

 当初、烏山病院が始まった時に一番力を入れていたのは統合失調症の方の治療、特にリハビリテーションです。それは日本でも先駆けてやっていました。今は発達障害にも力を入れていますけれども、そもそも烏山病院としてデイケアの診療はかなり前から力を入れている分野であるということです。

 

 2008年から発達障害の専門外来とデイケアプログラムをつくって、2014年から発達障害医療研究所が開設されたということです。2008年当初は発達障害を診られる精神科の医師は非常に少なくて、そもそも発達障害って子供の病気でしょというような認識でおりました。それは日本全体がというか、世界的にもそんな認識だったんです。

 ちょうど2008年ごろ、10数年前は、いわゆる大人の発達障害が実はすごくたくさんいることに気づき始めたころなので、始めたはいいんですけれども、診療経験が精神科の医者の中でもまだまだ不十分な状況の中で開設したということもあって、患者さんはたくさんニーズがあったんですけども、受けられる医者の数が非常に少なくて、たくさん患者さんは来るんだけれども、それに十分応えられないという状況が当初ありました。

 

 ただ、だんだんだんだんこの10数年を経るに従って、精神科の学会とかでもさまざま取り上げられたり、シンポジウムが開かれたり等しまして、受け皿は大分広がってきていて、社会的な認知も広がってきました。ただ、まだまだ新しい分野ということもあって、どのように治療していったらいいのか、診断していったらいいのかについての検討はこれからということもあります。それで研究所という形で、治療、診断、原因を、診療のみならず研究もしていこうというのが発達障害医療研究所になります。

 実際にたくさん患者さんが来ていまして、累計で8000名程度ですかね、今、初診の患者さんが来ていて、外来の再診の患者さん、再診は初診の次から定期的に通院する患者さんのことですが、それが大体800名ぐらいで、この数の患者さんの診療をしているのは恐らく日本でも最大級だろうと思います。

 

 発達障害の話をする前に、そもそも発達障害って何というところから理解をしていただけたらと思います。発達障害は小さいころから発達の遅れが生じるものを総じて言います。その中で幾つかの下位分類に分かれておりまして、広汎性発達障害(PDD)、注意欠陥多動性障害(ADHD)、学習障害があるんですが、最近は広汎性発達障害は使われなくなってきました。新しい診断基準では自閉スペクトラム症(ASD)という形で言われるようになってきています。広汎性発達障害の下位分類の自閉症とかアスペルガー症候群は聞いたことがあると思うんですけれども、それはもう新しい診断基準では消えてしまってなくなっています。

 

 なぜASDという形で統一をされたかといいますと、そもそもASDの中にあるアスペルガーと自閉症の違いは、言葉の遅れがあるかとか、知的な遅れがあるかということで区別されていて、あるのが自閉症、ないのがアスペルガーだったんですけれども、その本質的な特性そのものはアスペルガーでも自閉症でも同じなのではないか、一つの連続体(スペクトラム)として考えるべきではないかということでASDになりました。

 ですから、これからお話しする用語としては「ASD」という言葉を使わせていただきたいと思います。あとはADHDです。その二つのお話をさせていただけたらと思います。英語の用語ばかり出てきて、初めて聞く方は少し混乱してしまうかもしれませんが、ASDとADHDが大枠の中での発達障害の下位分類としてあるということをご理解いただけたらと思います。

 

 そもそも大人の発達障害ですが、なぜ「大人の」とついているのか。別に大人になってから発達障害になるわけではないんです。先ほどもお話ししたとおり、小さいころから発達の遅れが生じているものを発達障害といいますので、小さいころからその特性は存在しています。

 ただ、大人になってから診断される方が非常に多いし、当然、子供のときに診断された方も大人になるわけですが、なぜわざわざ「大人の」とついているかというと、アスペルガーのように知的な遅れがなかったり、症状が軽かったりする場合は、進学とか就職で初めて障害に気がつかれる(からです)。もともと特性はあったとしても、ちょっと変わってるねとか、個性的だねという形でキャラとして認識されていた。

 ところが大人になって就職とか進学とかそういったことでうまくいかない。結構勉強ができていれば、特性があっても高校までは何とかなる方が多い。ただ、大学に入ると履修を自分でマネジメントしなければいけませんし、就職になるとエントリーシートを書いたり面接をしたり、就職をしたら別に勉強だけを求められるわけではなくて、集団の中での立ち振る舞いも求められて、そういったことでうまくいかなくなってしまって受診に至るというのがよくあるパターンです。

 

 ここで言いたいこととしては、大人になってから発達障害になるわけではなくて、小さいころからそういう特性があるんだけれども、うまくいかなくなるのが明らかになってしまうのが大人になってからで、そこで初めて診断を受ける方が非常に多いということをご理解いただけたらと思います。

 

 自閉スペクトラム症では、一つは、社会性、コミュニケーションの障害があります。典型的には、小さいころから視線が若干合わなかったり、みんなが遊んでいるのに1人で物を並べて遊ぶというような(ことで)、周りとのコミュニケーションがうまくいかない。あるいは、積極性に欠けていて、放っておくと1人で遊んでしまうけれども、誘われればついてはいくという方は多いですが、人とのコミュニケーションに困難があるというのがまず一つの特徴としてあります。

 もう一つの特徴としては興味の限局性・常同性というのがありまして、こだわりの強さと言いかえることもできます。例えば電車の時刻表とか、図鑑で虫の知識とか、数字とか、そういったことには没頭はできるんだけれども、融通がきかないようなものだったり、右下にあるとおり、いつも行く道が工事中になっていた場合に、健常発達の子は、じゃあ今日はいつもと違う通学路じゃない道で帰ろうかとなるんですが、ASDがあるとそういったことが臨機応変にできなくて、何とか無理して通ろうとして混乱したりする。

 そういうところがASDの特徴なので、この主症状が二つあります。

 

 もう一つ、ADHDの主症状は不注意と多動性・衝動性があります。

 不注意はわかりやすいと思うんですが、注意力が散漫なんですね。忘れ物が多かったり、落とし物が多かったり、大人になると時間を守れなかったり、締め切りに間に合わなかったりというような困難を来す。

 

 多動性・衝動性は、典型的なところでいえば授業中座っていられないというものなんですが、授業中座っていられない人は小さいころに大体診断されています。小学校で、座っていなくてどこかへ行ってしまう。親が呼び出されて、「お子さん、ちょっと心配なので相談しに行ったらどうですか」と言われるケースが多い。大人になって診断されるようなケースは、そういった方はむしろ少数です。どういった形で多動性・衝動性があらわれるかというと、ちょっと落ちつかないとか、いらいらしやすいとか、性格なのか特性なのか、そこら辺がうまく区別できないぐらいの特性として出てくるのがよくあるパターンです。

 

 こういった多動性・衝動性は、大人になっていくに従って実はこの部分は一番変化がありまして、だんだんましになってくることが多い。例えば小さいころ授業中座っていられない子も、大人になってもずっと座っていられなくてどこかへ行ってしまうかというと、大多数はそうではなくてできるようになっていきます。ただ、若干ながらその特性は残っている。ただ、大人になると許される程度も子供のころとは変わってきまして、若干

落ちつかないところが、小さいころは許容されたとしても、社会人になるとなかなか許容されなかったりするので、特性自体は軽くなったとしても、求められる水準が変わりますので、それに伴う困難が大きくなってしまうということも多動性・衝動性にはあります。

 一方で、不注意に関しては、これはあまり変わらないというか、小さいころ不注意があって、大人になって不注意が軽くなる方はもちろんいますが、多動性・衝動性と比べると変化は少ない。大人になって受診される方、ADHDというふうに言われる方、あるいは疑う方は、この不注意症状に困って受診をして診断される方が多いように思います。

 

 もう一つつけ加えて言うと、ASDの主症状は二つありましたが、ASDの場合は診断するためには二つとも必要なんですね。ADHDの場合は、どちらか片方あればADHDと言える。多動性・衝動性がそんなに目立たなくてもADHDの診断は一応つけられます。

 そういったASD、ADHDですが、全く別の障害かというと、必ずしもそうではありません。下位分類で分かれているんですが、1人の人に両方の特性が存在しているケースはまれならずあって、かなり多いです。30%から50%程度、1人の人に二つの障害の特性があったりします。もっと言うと、学習障害(LD)を伴うケースというのは多くある。なので、1人の人を診るときには、それらの三つの特性が1人の人に重なる可能性も十分考えていかなければいけない。ASDという診断があっても、若干ADHDが入っているよねとか、その逆もそうですが、そういったこともよくあったりします。

 

 そのほか、発達障害に伴いやすいものとして、手先が不器用だったり、球技が苦手だったりという運動の問題とか、特に聴覚の過敏性が多いように思いますが感覚の過敏性があります。これは診断基準にも入っているぐらい、特にASDによくある特性です。

 もう一つ、最近注目を集めているのが、睡眠障害を併存しやすいことが指摘されています。これはASDでもありますが、特にADHDで伴いやすいと言われています。睡眠障害は、もちろん不眠、寝られないということも当然あるんですけれども、ADHDないしはASDで伴いやすいものはそれだけではなくて、過眠、あるいはリズムがすごく乱れてしまうというもの、いわゆる概日リズム障害が併存しやすいと言われている。ここは結構職場でも問題になりまして、職場で寝てしまうと、やる気があるのかという話になってしまうわけですけれども、やる気の問題ではなくて、発達障害の場合はそういった睡眠障害が併存している可能性を考えないといけないですし、職場の方にもそのことは理解してもらわなければいけません。

 右下に「ジェンダーの問題」と書いてありますが、これはASDにより多い特徴ですが、ご自身の性の同一性について悩みを抱えていたりする方というのは少なからずいると言われています。

 そういった発達障害の中身そのもの、中核的な症状以外にも、これらの症状を併存しやすい特徴があることは知っておいたほうがいいかなと思います。

 

 そういった発達障害ですが、なぜ発達障害になってしまうのか。それはさまざま研究されています。ただ、一つ、脳の機能の障害があるというのは明らかとなっています。

 30年ぐらい前までは、特に自閉症の場合は教育の問題、もっと言うと、母親の愛情不足とみなされていた時期が実はありました。今はもうそれは明確に否定されています。

 つまり、子供が社会性を持って他者と交わらないのは親がちゃんと愛情を持って育てないからだ、なんていうようなひどい認識があった時期はあったんですけれども、全く関係ありません。そういう育て方とか教育の問題と発達障害のありなしというのは一切無関係で、生まれながらの脳の機能の障害として発達障害があるという理解は、ASDもADHDも共通したものです。

 

 じゃあ脳のどういうところが発達障害の問題を引き起こしているのかについては、さまざま研究されていて幾つも論文が出て幾つも結果が出ているんですけれども、一つの結果に終着するところまでにはまだ行っていません。

 それはなぜかということになりますが、そもそもASDとかADHDは行動を見て診断していくわけです。コミュニケーションができないとか、こだわりが強いとか。その行動を引き起こす要因は実はさまざまで、脳もさまざまなんですね。発達障害という行動で見たときに一くくりにしていますけれども、脳の観点でいうと幾つかのサブカテゴリーが実はあるかもしれない。表面に出てくる一つの行動を捉えて診断をしているだけであって、脳の問題には幾つかの原因があり得るんじゃないかというふうに今は言われています。そういった発達障害の原因は脳にあるということです。

 じゃあ、発達障害の原因が脳にあるのであれば、脳を診たら診断ができるのかというと、残念ながらそれはまだ研究段階です。幾つかのクリニックなり病院なりで、発達障害の診断をするのに脳を診て診断をするというところがありますが、確かにある論文ではそういうことがあると言われていたり、先ほど申しましたとおり幾つも論文が出ています。それを全て捉えて全員に当てはめるのは相当無理がある。

 なぜならば、先ほど申しましたとおり、発達障害の原因が脳にあるとしても、そこにはさまざまな要因がある。診断となった場合には、まだそこまで洗練されていないと考えるのが自然で、それが今の精神科の医療の基本的なコンセンサスにはなっていますので、脳の画像で診断ということに関しては、あくまでも参考材料として捉えるべきで、それを確定的なものとして判断するのはまだまだ時期尚早だと思います。

 発達障害医療研究所でも、ご協力いただいてMRI画像研究をやっておりますが、その限界の中で、より精度を高めるために努力をしている途中であるとご理解をいただけたらと思います。

 

 遺伝子検査も同様で、発達障害に遺伝的な要因が関与しているとは言われています。ただ、それも1対1対応ではなくて、いろいろな要因の中の一つに遺伝的な要因があると言われていますので、遺伝子を検査したら発達障害かどうかが二分*26:28でわかるかといったら、そういったことではない。同じような遺伝子の異常がASDで見つかって、同じような遺伝子の異常がほかの統合失調症とか鬱病とかでも指摘されたりして、発達障害に特異的に使えるような遺伝的な異常が見つかっているかといったら、そうではない。

 なので、今現状、診断する場合には、症状を見ていくことと、小さいころからの情報を確認していくことが必要になってきます。

 

 そういった発達障害、ASD、ADHDですが、中核的な特性以外にも困り事がありまして、一般的に言う二次障害です。二次障害というのは、発達障害の一次的なコミュニケーション(の障害)とかこだわりとか、そういう特性があるがゆえにさまざまな困難がある。さまざまな困難によって、気持ちが落ち込みやすくなってしまったり、自信を失ってしまったりということにつながりやすいと言われております。発達障害を考える上では、そういった中核的な部分のみならず、二次的な部分も考えなくてはいけないということです。

 実際にいじめがあったかどうかを調査してみました。これはカルテでいじめがあったと書いてあった人だけを抜き出しています。それを言っていない人はもちろんいますし、聞いていない場合も当然あるし、聞いても書いていない場合も当然あるので、あくまでも聞いて書いてあった人だけを抜き取っても、ASDの場合は42%にいじめられた経験があります。一方、発達障害ではない、一番下の「診断名なし」では15%なので、比較すると、かなり多くの方が学生時代につらい経験をしているというふうにここからも見てとれます。発達障害を診る上では二次的な部分も考えなければいけないということです。

 

 もう一つ、カサンドラ症候群というのが最近ブームですが、聞いたことはありますか。うなずいていらっしゃる方もいるから、聞いたことがある方もいると思いますが、実は正式な病名ではありません。親子の家族以外にも、夫婦の場合で、例えば男性であれば奧さんになりますが、男性が発達障害の特性があるがゆえにコミュニケーションで苦しんでしまう女性のことを指します。

 最近はかなり注目を集めていまして、『読売新聞』の「医療ルネサンス」でこの研究所のこともデイケアのことも取り上げられましたが、反響が大きかった。記者の方は、今までの私の記者人生で一番反響が大きく、追加で反響編みたいなのをつくりましたと言っていました。発達障害は、親子の問題だけではなくて、夫婦の問題としても注目を集めているということです。

 

 

演題① 『発達障害と仕事〜受診から就労に至るまで〜

     太田 晴久 発達障害医療研究所 所長 医師

 

太田: 続いて「発達障害と仕事」というお話をさせていただきます。

 診断された年齢は、烏山病院では大人の発達障害の外来なので基本的には中学生以上ですが、多くは大人になってから受診されて診断されるんですが、大体20代です。ほとんどが知的障害がない方が多いです。一部、知的障害がある方もいますが、その方は小さいころ診断されていて大人になったケースが多い。いろいろなパターンがありますが、一番中心的なのは知的障害がない方です。

 

 そういった方は何が一番受診のモチベーションになるかといいますと、お仕事です。大学ないしは高校を卒業して就職をしようとしたけれどもうまくいかない、あるいは就職したけれどもうまくいかなくてやめてしまい、困って受診される。初診時の就労状況としては、皆さん大人なんですけれども、学生を除いたとしても無職の方が非常に多くて、ASDでは半分以上の56%、ADHDは38%で、皆さん受診されるときには仕事が大きな関心事です。

 

 仕事をどうするかを考える上で、まず受診されて診断があって、その次どういうことがあるかというと、自分が発達障害であるということを理解していかなければいけない。「障害受容」とありますが、自分が発達障害であることを受けとめていかなくてはいけないという作業がまず最初にあります。これは千差万別で、発達障害と自分で確信して(いて)、受診して言われて安心したというケースもあります。

 ただ、一方で、親御さんとか上司に言われて受診した場合、発達障害だと言われても、納得できない、そんなはずはないという方も多くいらっしゃいます。発達障害という特性があることを自分でどう認識していくかが、まず外来の最初の関門になります。発達障害を受容して、あなたはこれができないんだから、発達障害なんだから認めなさいといっても、多くの方は反発するだけで終わってしまいます。

 

 診断というのは、そもそも患者さんにとってメリットがあるから診断をするわけで、レッテル貼りのように、勝手に押しかけていって、発達障害だと言い捨てて帰っていくということはないわけです。つまり診断したその後、どういうメリットがあるのかを患者さんに理解してもらわないと診断の受容にはなかなかつながらない。

 もう一つは、発達障害という名前は知っているけれども、実際どういうものかがうまく理解ができていない、当然だと思いますが、実感として持っていないところがあるので、発達障害とはどういうものなのかを適切に理解することも必要だろうと思います。

 どのように障害を受容していくのかが一つの関門ではあるんですが、抵抗を示す方は、診断されてしまうと自分の将来が制限されてしまうんじゃないかと心配するケースもあります。

 

 ただ、発達障害の診断は、特性そのものだけで診断するわけではなくて、特性があって、そのことで困っている方に対して診断をするということなんですね。つまり発達障害の特性と困っているがセットで診断と。その言い方は、逆に言うと、別に特性があっても困らなくなったら診断ではなくなるという話なんです。あくまでも困り事を解決していくための、あるいはサポートをもらうための一時的なものという理解でも一向に構わない。

 特性自体は残念ながら永続的に一生続いていくことが多いんですけれども、特性とうまくつき合って生活をできるようになったら、別に診断も要らないし、サポートを受けながらやっていったほうが自分としては生きやすい場合には、診断をうまく利用しながら生活をしていくことも当然あるわけです。そういった発達障害の診断に対する考えそのものを、患者さんご自身と話しながらなるべく理解してもらうことがまず最初の作業になっています。

 

 受容していくのは時間がかかることも多いです。あまり焦らないほうがいいように私は思います。自分として診断があったほうが便利だなとか助かるなとか、どのように本人が傷つかずに受け入れていくのか。それは早い人もいますが、時間がかかる人もいる。その場合は時間をかけながら、困り事とつき合いながら、最終的に診断を受け入れるタイミングが来る方が多いので、あまり焦らずにやったほうがいいこともあります。

 発達障害のイメージは人それぞればらばらで、言葉だけは理解しているということもあるので、デイケアとかに出てみますと、普通の人たちという言い方が正しいかどうかわかりませんが、特別な人がいるというわけではなくて、身の回りにいるような人たちがそこで診療していますので、それであればということで受け入れてくれる方も一定数いらっしゃいます。

 

 一方で、発達障害はなぜ障害受容をしにくいのかという理由の一つに、自分の特徴を理解しにくい、自分のことを客観視しにくいという特徴がある。それが障害特性ともかかわっているので、そこがそもそもの受容しにくい要因の一つになっている。

 横軸にあるADOSは客観的な評定です。専門家が見て発達障害が強いのが点数が高い。AQは自己評価です。自分が発達障害の特性が強いと思っている方。通常は正の相関を示すんですけれども、(ASDではAQとADOSの値に有意な)負の相関を示した。

 負の相関というのは、つまり自分は発達障害の特性は少ないと思っている人ほど周りの人から見ると特性が強い、逆に自分は発達障害の特性は強いと思っている人は、周りから見るとそうでもないという矛盾がデータからも示されています。こういった自己認知がしにくいところからも、そもそも障害の受容はしにくいということがあるので、障害受容をすぐできなくても、ある意味当然であるとも言えると思います。

 

 そのほか、実行機能の障害も就職を考える上では結構ネックになっています。仕事を選ぶときには、受診をして何とか受容をして自分のことを理解して、自分に合った職を選ぶという流れになるわけです。つまり、仕事を選ぶときに、自分に合った環境を選択することが一番大事です。自分の特性を解決していって、それで何とか社会適応というのはどうしても限界がある。環境を自分で適切に選択をしていくことが大事です。

 そのためには自分のことをよく知って、じゃあ就職をしようかなと思ったときに、次にネックになるのは実行機能の障害です。実行機能の障害というのは、なかなか意思決定できない、やろうと思えないし、計画を立てづらい、だらだらだらだら時間がたってしまう。なので、せっかく受容してやろうと思ってもだらだらしてなかなかやれないのは、だらだらして怠け者だというわけではなくて、発達障害の中で実行機能の問題が影響しているかもしれないということを理解していく必要があるかなと思います。

 

 就職を考えていく上では、1人でやるとどうしても限界があるのでサポートをしていくことになりますが、サポートしていくための社会資源として、自立支援制度とか、精神障害者福祉手帳とか、障害年金があったりします。特に就職とかかわりが強いのは精神障害者福祉手帳ですかね。企業の中で一定数、障害枠という形で就職を受け入れていますので、精神障害者福祉手帳をとるかどうかが一つの分かれ道というか選択肢になってきます。

 ほかには就労継続支援とか就労移行支援というものもあって、就労移行支援は2年間の期間で就労支援をしていくことになりますし、就労継続支援は期間は特になくてリハビリ的に就労の準備をしていくということもあります。

 

 ここで、例えば外来に来て就職活動をしようとして、ある程度障害受容をしてというときに、一般枠にするのか障害枠にするのか悩む方は多いです。周りから見ると障害枠のほうが安心なんだけどなと思う場合でも、本人は一般枠で働きたいという方がいます。そういう場合はどうするか。

 これはもちろん個別個別で考えていかなければいけない問題だと思いますが、大前提としては、就職するご本人の気持ちを全く無視した形で就職活動をしようとしてもうまくいかないことが多い。ある程度のところであれば本人の気持ちを尊重しながらやってみて、うまくいかなかったらその都度修正していきながら、ご本人にとって一番いい場所を選択していくという考えもあるんじゃないかと思います。

 

 障害枠というのは、特に最近は精神障害者の割合が急増しておりまして、法定雇用率、障害枠をどのぐらい採らなければいけないかという割合も年々ふえています。発達障害ないしは精神障害の方を受け入れていくことに、企業側としても関心がかなり高いということです。

 

 就職をするときにどういった仕事が向いているのかということで、これは障害特性で考えてみるとわかりやすいんですが、一般論としては、ASDではルールやマニュアルがしっかりしている仕事であったり、ADHDであれば自分が興味がある分野を生かしたりということがあります。

 ただ、発達障害は千差万別です。ASDであればこう、ADHDであればこうというふうに、なかなかクリアカットにいかないこともありますので、個別性が大きいことは認識していく必要がありますし、実際に体験してみないとわからないことも多かったりします。想像して、イメージして、自分に合っているか合っていないかということは、特に発達障害の特性があるとわかりづらい。実習をしてみたり職場体験をしてみたりするとよくわかったりするので、自分の適職を見つけていく上では、積極的にそういう体験をされることが大事だろうと思います。

 

 デイケアも支援の一つとしてあって、この後、横井、水野がお話しするんですが、発達障害専門プログラムがあって、その後就労準備コースで就労移行支援までつながる場合もあれば、デイケアで就職活動をする場合もあります。

 デイケアですが、こちらの発達障害のデイケアの中では、全20回、1回3時間の枠組みでやっておりまして、『東京新聞』でも、3月、夕刊の1面で取り上げられたりしています。

 ADHDに関してもショートケアプログラムをしています。

 

 転帰調査ですが、ASDの場合は継続率が結構高いのが特徴で、続けられれば、障害枠も含めてですが、55%が就職をしたということはあります。ASDの就労上の困難は幾つかあります。作業遂行能力の問題とか、コミュニケーション、感情コントロール、睡眠、感覚過敏とかさまざまな問題があるので、キーワードとしては「構造化」「視覚化」「具体性」とありますが、ASDは特に、構造化した形で支援をしたり、視覚的な情報を使って支援をしたり、より具体的に伝えていくことを意識されるといいかなと思います。

 

 ASDの方は特にそうなんですが、ほかの人に援助を求めるという意識がなかなか持ちにくい。自分で全部解決しようとして破綻してしまうこともあるので、その意識を持ってもらうのがすごく大事かなと思いますし、努力でということも限界があるので、どういう工夫をするのかを考えていくことが必要です。

 具体的には、例えば作業遂行能力の問題で、優先順位がつけられない、何をするかわからない場合は、スケジュールとかを具体的に決めていくことがいいと思います。コミュニケーションの問題で、報連相(報告、連絡、相談)ができない。例えば優しい上司が、何かあったらいつでも聞いてねと言ってくれるんですけれども、いつまでたっても何も言ってこない。なので、報連相をある程度スケジュールに組み込んでしまったり、相談の仕方もわからなかったりしますので、例えばメールとかそっちのほうがやりやすかったりしますので、そういう視覚的な情報を利用することもします。

 

 感情コントロールの問題ですが、これはASD、ADHDに共通していますが、被害感を抱きやすいんですね。これはさっきの二次障害の話と絡んでくるんですが、いじめられている経験とか、人に何か言っても「おまえ、そんなことを聞いてどうするんだよ」ということで、周りからは拒絶される経験がどうしても多くなってしまう。周りに援助を求めて、それがよかったと思う経験が非常に少なかったりするので、自信がないからこそ、感情コントロールが悪くなったり、被害的になってしまうということがあるので、そこを周りとしても認識していったらいいかなと思います。

 そのほか、感覚の過敏性とか眠気というのもありますが、これはそもそもやる気の問題ではなくて、特性としてそういうのがあるという理解が必要だろうと思います。

 

 ADHDでも基本的には一緒です。ASDとちょっと違うのは、ADHDの場合は一般就労の方が結構多いです。さっきの初診時の就労もASDのほうがなかなかしにくかったりということがありますが、ADHDは結構就職活動を突破してしまって、就職した後困ってしまうみたいなことが多い。一般就労をするとどういうことがあるかというと、甘えられないから自分で何とか頑張らなきゃいけない、みんなと同じようにしなきゃいけないといって破綻して鬱になってしまうことがあったりします。

 ただ、ADHDも同様だと思います。一般就労でも障害雇用でも共通したところだろうと思います。一般就労をしたからといって、人に助けてと言ってはだめなんていうことは全然ないです。自分の苦手なことは人に頼って、逆に自分のできることはすごく頑張るという感覚というのは、一般就労でも障害就労でも基本的には同じ考えでいいんじゃないかと思います。ただ、当事者の方はなかなかそう思えなくて、これはちゃんとやらなきゃということで自分で抱え過ぎてしまう嫌いがあると思います。

 

 工夫して乗り切るというのは、特性をカバーするための工夫をしたり、お薬がありますのでそういうのを使ったりする。具体的に言うと、(ADHD特性をカバーするための)工夫としては、期限に間に合わない、締め切りを忘れてしまうという場合には、締め切りをカレンダーとかで見えるようする。やる気が起きない、実行機能の問題がある場合は、とりあえず手を動かすような、まず小分けにして作業をする。

 みんなと同じようにしなきゃという方は結構多いんですけれども、別にみんなと同じようにしなければいけないわけでもない。結果的に間に合えばいいので、ぎりぎりでも間に合えばオーケーという開き直り、自分なりの間に合い方というのも大事かなと思います。

 

 烏山病院では(発達障害を有する)大学生に対しても支援をしております。大学生の場合は、特に自己認知が乏しい。大人のいわゆる成人の発達障害の方よりも社会経験がまだ少なかったりしますので、自分がどこまで社会に通用するのかよくわかっていないことがあるので、自己認知をどういうふうにしていくかも大事だったりします。

 大学生の支援で大事なのは、中退とか休学をしてしまって、そのうち半数以上が引きこもってしまうということがあったりします。大学在学中からちゃんと医療とかにつながることが必要です。大学の中で支援していても、退学してしまうと支援がなくなってしまうんですね。そうすると引きこもってしまうことがあるので、大学在学中に外部の支援機関と*51:16つながるということが必要になってきます。

 

烏山病院では、大学生のプログラム、特に自己理解に力を入れてやっているということです。

 デイケアのプログラムをASD、ADHDでやっていますが、最近、新しいプログラムを開発しまして、ピアサポートプログラムと汎用性ADHDプログラムがありますので、この後、お話を聞いていただけたらと思います。

 駆け足になりましたが、ご清聴ありがとうございました。(拍手)

 

若干時間が押してしまいましたが、お許しください。(時間が)もしあれば、5分程度、1人2人で質疑応答をしたいと思うんですが、いかがでしょうか。

 

参加者○○:今コロナで大学生たちがなかなか学校に行かないというふうになっているんですが、支援が行き届きにくくなるのではないかと思っています。もう一つ、通信制だとやはり学校に行く機会が少なくなるので、私のようにドロップアウトしてしまう確率は高いと思うんですが、その辺をお伺いしたいです。

 

太田:コロナとかでオンラインがかなり使われるようになって、これは相性があります。オンラインになってほんとによかったという人も、何とかコロナの最中に卒業したいみたいな人もいる一方で、オンラインになったせいで課題がすごくふえちゃったんですね。授業に出ていればオーケーだったこれまでの学校が、授業に出るだけではなくて、ちゃんと授業を聞いて感想をレポートに書いて出さないと出席にならないという形になっているところが多くて、そこに苦手意識を持つ方はオンラインができないということがあるので、よしあし、千差万別です。

 特に今年になってから、かなりの大学で授業に出る方向に動いてきているところもありますので、そこのギャップが実はあって、大学の中でも何とかコロナで隠れていた発達障害の方が、1年生の方は3年生になってたりしているので、その方をどうしていくのか、リバウンドというんでしょうかね、そこへの対応には大学の支援者の方も気にされているところがあります。ギャップにうまく適応できない場合は、まずは学生相談室などで相談をして、そこで必要であれば医療にかかるなどの対応をしていただけたらいいんじゃないかと思います。よろしいでしょうか。

 

参加者○○○:先ほど厚生労働省のほうの画面もあったかと思うんですが、今日のこの講座もそうなんですが、発達障害を持つ本人、並びに両親、あるいは支える方々が就職に向かって、あるいは社会への適応に向かって努力している創意工夫、いろいろなものは見えてくるんですけれども、例えば厚生労働省の障害者雇用促進法にしても、それを受け入れる側の企業に対する罰則はないので、今後、企業に対する取り組みをする意向が厚生労働省にあるのかどうか、この辺はいかがでしょうか。

 

太田:厚生労働省がどうかというのは私個人ではわからないところもありますが、企業自体の努力にもまだ少しばらつきがあります。ただ関心のある企業はかなりふえてきています。実は障害雇用をするのは企業にとっても経済的なメリットがあって、罰則はないにしても、補助金とかそういったものがあるので、基準を満たすようにしていくのを企業としても求めていて、今までは知的障害とか身体障害の方で障害雇用がある程度賄われていたんです。ただ、法定雇用率が徐々に上がってきているとお話ししましたが、その差をどう埋めるかというと、そこで身体障害とか知的障害の人を雇おうとしても、もういい人はいない。

 なので、企業としても新たに精神障害の方を雇う努力をしていかなければいけないという全体的な流れになってきて、精神障害を雇うときに一番有力なのが発達障害です。発達障害は基本的には特性自体は変わらないので、対応を一回形づくると、そのまま長く安定して働けるというメリットがあります。例えば鬱病とかだと、どうしても急に調子を崩しちゃうことがあったりします。安定性と、あとは能力です。例えば統合失調症はどうしても福祉的な仕事にならざるを得ないんですけれども、発達障害の場合は戦力として使えるところもあったりします。

 企業としてもまだ取り組みは個々別々でばらつきがあるのが現状ですけれども、特に発達障害に関しては、関心がある企業がかなりふえてきているのは事実だと思います。

 

参加者○○:今日講座で説明いただいたときに、発達障害の診断は、病気としての診断ではなく、あくまでも困っている間に受けるものというお話をいただきました件です。特に困らなくなったら、そのときはそのときで診断を受けなくてもよいという話をいただきましたが、私は今手帳を持っているんですが、一回手帳を返すと、再度また、困りました、私、手帳が欲しいですとなったときに申請が難しくなってしまうという話をいただいています。自分がいざ困らなくなったときに診断を取り消していいものかどうかの判断が難しいので、そういったところはどうやって判断すればよいか、一般論を教えてください。

 

太田:困るから手帳が必要と思うわけですよね。先の話になるかもしれませんが、手帳も要らなくて一般就労でやっていけて大丈夫だという話になったときに、例えば手帳を返しましたとなったとき、それで(また)困る状況になった場合は申請できると思います。特性自体があるのであれば、それで困る状況になれば、再申請というのは全然問題ない話で、自分が希望すれば、手帳の更新も、今の現状では消されるケースはほとんどないというか、私は経験がないです。手帳に関しては、希望すれば基本的に継続可能で、再申請も可能だと思います。

 ただ年金は結構厳しいです。年金は、希望しても継続できるかどうかは、国の施策によって変わってきたりするところはありますけれども、手帳に関しては今のところ、継続が難しいとか再申請が難しいといったことはないと思います。

 

参加者○○:診断がおりなくなったとしても、手帳の継続はできる。

 

太田:そもそも発達障害について特徴があることで困る状況になった場合には診断があります。手帳がなくなったら困る状況というのは、発達障害の特性によってまだまだ困っている状況だと思いますので、診断自体も続くと思います。

 

参加者○○:困っている限りは。

 

太田:はい。勝手にこっちで消されちゃうという話ではないです。自分の希望がある場合にそういう考え方もできますよというお話であって、医療側が、あなたはもう困っていないから診断しませんということになるケースはほとんどない。そもそも通院している人は困っているから通院しているんです。本当に困らない方は通院しないんです。通院していてやっている限りは、基本的に希望すれば診断はそのまま続くと考えていただければいいんじゃないかと思います。

 

参加者○○:わかりました。ありがとうございます。

 

太田:2階席ですかね。

 

参加者○○○:私は今、クローズ就労で働いているんですが、まだ会社が体質が古いこともあって、発達障害の方を雇用するとかそういうことに関してあまり積極的でないというか、恐らく、どういうふうにその社員の方に対していいのか、扱っていいのかみたいなこともすごくおっくうに思っている空気があります。発達障害の方を雇う人数はふえていて、企業側にメリットがあるというお話は以前から伺っているんですが、受け入れる会社の側の、例えで言うとコンプライアンスだったりハラスメントのように、啓蒙していくということがまだまだのような気がします。

 実際に雇われた方が、本人の努力ももちろん必要ですが、特性を理解していただいたり、障害者とわかった途端にがんと収入を下げられるとかではなく個別に対応していただくとか、そういう理解をどんどん啓蒙していただけたらと思うんですが、そういうことは将来的にどうなんでしょうか。

 

太田:おっしゃるとおりだと思います。診断がついたら給料を下げられるとか、本来それはあり得ないと思いますね。最初にお話ししましたが、診断はあくまでも本人のメリットのためにあるので、診断がついて配慮が受けられるというメリットのために診断をするわけであって、給料を下げられたり、自分がやれる仕事をやれなくなるために診断をするわけではもちろんないので、本来あるべき姿というのは今の質問者の方がおっしゃったとおりだろうと思います。

 発達障害についての理解がまだまだなのも現状としてあります。ただ、理解をしてくれる人たちもふえてきているというのも実際そうですし、我々もよく企業からお声がかかって、発達障害について教えてほしいということでお話しさせていただく機会もありますので、企業の側としても必ずしもそういうことに全く関心がないのではなく、基本的な全体的な方向性としては理解を深めようと努力をしてきています。

 ただ、それが裾野に広く行き渡っているかというと、そうではないというのが事実だと思いますけれども、全体の方向性としては、なるべく理解を深められるような形で企業側も考えつつあるというのが現状かなと思いますし、そういう機会も講演のようなケースであったりもします。お答えになっているかどうかわからないんですが、よろしいでしょうか。

 

参加者○○○:うちの会社を見ていてもそうなんですが、知識とか情報が足りていないというところも多い気がします。ですので、こういった講演とか、積極的に企業が関心を持って歩み寄ってくださるのが理想ですけれども、どうしても偏見とかいろんなものが広がっている以上、ある程度強い形で広めていただけるときが来ればいいなと思っています。

 

太田:そうですね。それは我々としてもやっていきたいところでもあります。ありがとうございました。

 

 

参加者○○○:ありがとうございました。

 

太田:じゃあ最後に。

 

参加者○○:発達障害は子供のころからあるということなんですが、子供のころはそこまででもないのに、かなり発達障害に当てはまるという現状で困っている場合は、病院によっては発達障害じゃないからわからないですということもあると思うんですが、そういう場合はどういうふうに診たらいいんでしょうか。

 

太田:多分、考えは二つに分かれると思って、小さいころそれほどもないというのは、例えば環境的に自分の特性に伴う困難が表面化しないような環境にいたからそれほどもないけれども、本質的にそういう特性自体は小さいころあったと考えられるようなケースであれば、発達障害としていいと思います。

 一方で、小さいころはほんとに全然問題なかったんだけれども、大人になってから特性自体が変わって強くなったという場合には、発達障害という理解よりも、ほかの原因を考えていかなければいけない。つまり、発達障害的な特性というのは発達障害だけで出てくるわけではなくて、精神科のほかの疾患でもコミュニケーションだったり注意の問題は出てき得るので、そこを区別していく作業が必要になってくるかなというところでしょうか。

 

参加者○○:ありがとうございました。

 

太田:時間が大分押してしまいました。お2人、申しわけございません。とりあえず演題①という形で私のパートを終わらせていただきたいと思います。ありがとうございました。(拍手)