2021年度 東京都地域精神科身体合併症救急連携事業『精神疾患対応力向上研修』②


2022年2月17日(木)18:21〜19:31 昭和大学附属烏山病院(WEB配信)

 パネルディスカッション 岩波 明 昭和大学附属烏山病院 院長

              新村 一樹 昭和大学医学部精神医学講座 助教

                                                      奈良 圭之輔 碑文谷病院 院長

真田  :  それでは、この後、パネルディスカッションに移りたいと思います。

岩波 明(昭和大学附属烏山病院 院長。以下、岩波):  

 それでは、奈良先生、新村先生よろしくお願いいたします。本日は、新村先生から、外科医と精神科医の立場から見た合併症をどういうふうに考えるか、改めて聞いても非常に示唆に富むお話だったと思うんですが、それに加えて、現在進行形で烏山病院でも多くの精神科病院でも非常に困っています、新型コロナウイルス感染症の現状についてご報告いただきました。

 新村先生のお話があるとおり、精神科病院そのものがこういった感染症に対応した構造には全くなっていない。施設的にもそうですし、人員的にもそうであるというところで、現場の方々は非常に苦労されていますし、合併症を受けてくださっている松沢病院を初めとした諸病院、東京都の方も、非常に患者数が多くて苦慮されていると思います。そういったことを踏まえて、今後、精神科の合併症医療、精神科病院と一般の身体科病院はどういうふうに連携していくべきなのか、少しでもそういう道筋をつくればいいかなと思いまして、このパネルディスカッションを企画しました。

 ここからは碑文谷病院の院長をされております奈良圭之輔先生にも参加していただきます。奈良先生は現在は、目黒区にあります碑文谷病院というまさに救急の専門病院の理事長、院長を担当されているわけですが、実は以前は精神科の医師としてアルコール依存症の専門病棟の治療経験もありますし、もともとは薬理の専門家で研究者でもあったので、いろいろな視点からお話をいただけると思います。

 最初に奈良先生からお伺いしたいんですが、今、烏山病院の現状について新村先生からお話がありましたが、先生の今のお立場から、何かコメントなり、感想なり、質問なりがありましたらお話しいただけるでしょうか。

奈良 圭之輔(碑文谷病院 院長。以下、奈良):  

 岩波先生、ありがとうございます。新村先生、ご講演、どうもありがとうございます。目黒区の碑文谷病院から参りました奈良圭之輔です。よろしくお願いします。

 今、岩波先生からご紹介いただきましたが、現在は町の二次救急病院の管理者として働かせいただいて、今年で5年目になります。私はもともと、研究をやった後、精神科医になりまして、研究者のときからアルコール依存症とか身体合併精神障害に興味を持っていたものですから、それが実現できる施設で研さんさせていただいて、最終的には地元の目黒区に戻ってきたということです。

 

 当院は、脳外科、整形外科、外科、内科、胃腸科ということで約55年前に開業してやっている小さな救急病院ですが、私はそういったところで生まれ育って、小さいころから耳がよく聞こえて、どんな遠くからでもと言ったら言い過ぎかもしれませんが、救急車の音を聞きますと、患者さんがやってきたと。そうすると、18年前に亡くなっているんですが、どんな寒い夜中でも父が走って救急医療を対応していたというのを間近で見て育ちました。

そういったところから、救急と精神疾患を一緒に診ることはできないかということを思っていました。

 

 単科の精神科病院にも約10年勤めさせていただいて、アルコール依存症病棟、センター立ち上げなどにかかわってきたところから、単科の精神科病院で身体合併をどんどんやろうとしますと、いや、うちは厳しいんじゃないかというような場面に相当出くわしました。それでも、身体的なものはこうやって診ていったらいいんじゃないかということで仲間同士でやっていたんですけれども、先ほど新村先生がお話しくださったように、単科の精神科病院にはある程度の限界があるということがわかりまして、実家のほうに戻ったという感じです。

 そうしますと、精神科医が戻ってきたということで、精神科、心療内科を標榜して治療を開始しようということで掛け声をかけるんですけれども、院内で特にスタッフの大反対が起きまして、「精神科の患者さんを診るんですか」「いや、精神科の病気の名前もついているだけで、みんな同じだよ」というところから始まったんですね。それで大変苦労して、現在もそういった教育をしていっているところですが、スタッフの理解を上げていくというのが重要になってくると今も考えながらやっております。

 

 ですから、両方、精神科単科の病院、それから救急の特に外科系の病院、外科系の常勤医の先生の理解を……。大体、紹介状の書き方、カルテの書き方からして全然違いますから、精神科の場合も、人の歴史を横断的に見て、一体どういう人格が形成されてきたのかというようなところから始めなければいけないのに、整形外科の先生のカルテなんかは2~3行でぱっぱっと書いてあって、それも略文字ですよね。それも一つ一つ学び始めたり、周りにたくさんのいろいろな科の先生、きょうだいや知り合いやお友達がいっぱいいましたので、そういうところから学び始めて、この5年間突き進んできたというところです。

 

 当院は二次救急の一般病院ですので、とりあえずファーストタッチで診ていこう、どんな患者さんでもとりあえず診て、これは診られないなということであれば直ちに転院先を探すということをやってきました。ただ、これまでのゆったりとした精神科だけの診察ではなくなりまして、自分は管理者なのでブラックとは呼べないんですけれども、1日14~15時間労働というのは当たり前だというような感じになっています。同じような志を持った先生にいっぱい来てもらいたいなというような気持ちを持っているところです。

 ごめんなさい。いっぱい言いたいことがあり過ぎて、しゃべり過ぎてしまいました。一旦お返しします。

岩波 :  大変興味深い話をありがとうございました。

 それでは碑文谷病院の現状をお伺いしたいんですが、先生のところは例えば昭和大学のERからも随分受け入れているように聞いているんですが、現在、精神症状のある方、入院してからの場合もあるし、そういう方を紹介される場合もあると思うんですが、今のところどういう対応をされているんでしょうか。

奈良 :  精神症状がきついとか、精神科の診断名がついている患者さんを多く診ています。先ほど先生がおっしゃったように、衝動性からの爆発を起こすような患者さんはもちろん診ることができません。

 例えば、アルコール依存症で寝たきりになってしまって、体中に褥創ができて、大腿骨のつけ根が見えていますというような患者さんとか、縊首をしてしまって遷延性意識障害になって誤嚥性肺炎を起こしている、行く行くは気切をつくったり、胃瘻をつくったり、人工呼吸器につなげなければいけないような方。精神科の診断名がついていますとスタッフや一般科の先生は抵抗がありますので、「そうじゃないんですよ。精神科の部分は私が全責任を持って診ますので、ほかの部分、私もちょっとだけやらせてもらいながら一緒に学んでいきませんか」というようなことをやっています。

岩波 :  例えば、どうしても入院してからせん妄が発症するとか、オーバードーズの方なんかも受け入れられているわけですよね。

奈良 : そうですね。

岩波 :  そういった方で、身体処置がある程度終わった段階の後のプロセスはどういうふうにされているか、教えていただけますか。

奈良 :  基本は、精神療法的な介入を十分に行うということです。

 アルコール依存症の患者さんを多く診てきましたので、似たようなアプローチで、ご自分の振り返りをしていただき、物事の受けとめ方や、それに基づく行動、生き方に関してしっかりとお話をしていくというような体制をとっています。一般科の特に外科系の先生は短い時間でぱっぱっと終わらせることが多いんですけれども、そこはねっとりとお話をしていくというようなことを行っています。

 そうしますとスタッフもそれを見ているんですね。いわゆるERやオペ室、外科系のスタッフがものすごく多いですから、何か急変が起こったときはわっとやれるんですけれども、ねちねち話してくるような患者さんに対してこうやってお話しするといいんだよということを、わざと私の背中を見せるように、みんなのわかる場所で精神療法的なかかわり合いを行うというようなことを印象づけるように治療を行っています。

岩波 :  そうすると、精神症状が安定して、あまり転院まで行かないケースが多いというような理解でよろしいでしょうか。

奈良 :  そうですね。ただ、一般病院ですから、よくする時間をなるべく短くしていかなければ経営的にも事務系のほうからつつかれますので、そういったところのバランスが難しいです。私なんかは事務系からは、院長のとる患者さんは時間がかかってしょうがないと言われるようなこともありますが、私だけではなく、誰が精神療法をやったっていいんだよ、点数をとれるのは精神科医だけだけれども、誰が介入してお話ししたっていいんだよというような、スタッフの教育を行っています。

岩波 :  先生の立場から見て、烏山病院を含めてですが、早急に精神科病院に転院をさせなければいけないようなケースは、どういったケースがありましたでしょうか。

奈良 :  ありました。東京ルールに乗った外国人、チェコ人だったか。まず英語は入らない ロシア語とドイツ語が少し話せる2メーターを超える幻覚妄想状態になった統合失調症と思われる患者さんで、70医療機関に断られて。

岩波 :  その方は何か身体症状があったわけですか。

奈良 :  身体症状はありました。緊急高血圧症状があって、東京都の二次救に乗って、とりあえず診ましょうと当院に来たんですが、完全なる幻覚妄想状態で当院では診ることができないということで直ちに転院先を探しました。しかし、なかなかとっていただけるところがなくて、何度も何度もお願いして、墨東病院だったでしょうか、そういったところに運んでいただいたという経験があります。

岩波 :  そのケースは多分、外国人というのもかなりネックになりましたかね。

奈良 :  その後、墨東病院で治療を受けて、うちに戻って、ありがとうと言ってくれたので、無事に東ヨーロッパのほうに帰られたんじゃないかと思います。うれしかった一例だったと思います。

岩波 :  東京都ではいわゆる合併症ルートというのがありまして、松沢病院を初め、我々の病院からも今回も大分転院させていただいたりして、それなりに機能していると思うんですけれども、新村先生もおっしゃったように、単科の精神科から見るともうちょっとというところはあると思います。先生のお立場から見て、精神疾患の合併症のシステムをさらにバージョンアップするにはどういうところを変えていったらいいかというのは、ぜひご意見を聞かせてほしいんですが、いかがでしょうか。

奈良 :  一般の二次救急病院に、身体科も少しでも診ていこうと思っている精神科の先生にどんどん来ていただくということが大事ではないかと思います。とにかく同じ志を持ってやっていただける先生がいたら、東京都の精神科身体合併の治療、体制というのは変わってくるのではないかと思っているところです。

岩波 :  一般の総合病院的なところに奈良先生を配置するというようなことが必要だということでしょうか。

奈良 :  私も精神科単科の病院にいたときに「精神科」「身体科」なんていう言葉を使っていましたが、何だろうと。

 人間が相手ですからね。「精神科」「身体科」という言葉でもって壁ができてしまっているような、そんな印象を持っているんですね。精神科の患者さんだって、アルコール依存症の患者さんだって、なりたくてなったわけではないよねというところから入っていますので。アルコールを飲むと、身体的に体がやられやすい人と、頭が先にやられてしまう人と、大体2通りぐらいあると思うんですが、どっちも診なければいけないよねと思っています。アルコール依存症の治療をやっているときに、内科的な知識や手技というのも学んでいかなければいけないよというような仲間づくりをしてきました。

岩波 :  ありがとうございます。新村先生にもお伺いしたいと思います。先生は今回、新型コロナウイルス感染症のことで転院のアレンジとか非常に苦労されたと思うんですが、合併症のシステム、あるいは奈良先生へのご質問でもいいんですが、その他について何か先生のほうからコメントなり質問なりあったらお願いしたいんですが。

新村 :  今、LINEじゃないですけど、いろいろなSNSが発展してきている中において、例えば情報共有の場として、何々病院です、男性でも女性でもいいんですが、何歳の方で、基礎疾患はこれです、精神状態は落ちついているんだけど、これで困っていますみたいなのが、掲示板じゃないけど、そこにぽんと載せられて、それぞれの病院が拾える。その逆もありで、身体科の病院の先生が、身体疾患はこういう感じです、精神病症状はこれで困っているんですよみたいなのをぽんと載せる。精神科や身体科の病院の先生が把握できるようなシステムがあったら一番早いのかなと思ったりします。

岩波 :  例えば、この合併症の事業の中で烏山病院でそういうものをつくって、相互交流できるようにしたらどうかというご提案でしょうかね。

新村 :  もしそれができたらすごく便利だなと思いました。

岩波 :  奈良先生、どうですか。そういうシステムがあったら使えるでしょうか。

奈良 :  大変ありがたいと思います。そういったシステムがあったら、まずは使い始めてみないとだめだと思うんですね。使って使って使い倒すぐらいやらないとシステムの向上にもなってこないと思いますし。どこかやってくれませんかね、先生。

岩波 :  例えば東京都の合併症ルートでも、あれは今は電話とファクスですね。別に東京都が悪いわけではないんですが、なかなかデジタル化しない。確かにネットで共有できて一瞬で見られる。近藤さん、どうですか。そういうのはつくれそうですか。

近藤 周康(昭和大学附属烏山病院 総合サポートセンター 実務責任者):

 とりあえず情報の短縮化にはそれが一番です。

岩波 :  本橋さん、どうですか。実際に構築できそうですか。

本橋 伸介(昭和大学附属烏山病院 総合サポートセンター): 

 できたら一番ベストだなと思います。

岩波 :  イメージとしては共有画面みたいな、ですかね。

新村 :  そうですね。そういうようなところで。

岩波 :  掲示板みたいな感じですね。

新村 :  掲示板みたいな形で、例えば当院が困ったよと出して、身体科の病院の事務なりがそれを見て、ちょっとここを聞きたいんだけどというと、そこをクリックしたら飛ばせるとか、多分それぐらいのやつはあるのかなと思うんですよね。そうしたら話が早いですよね。

岩波 :  確かにそうですね。

新村 :  ベッドがあいているところはすぐベッドがとれるので、双方にうまみがあるかなと。

岩波 :  電話だとなかなか通じなかったりするし、そこでちょっと待てという感じで、確認して、また電話してみたいな、かなり時間がかかるのは確かですよね。

奈良 :  電話はもう勘弁してくれという感じで。ずっとあの「エリーゼのために」みたいなのが聞こえて、「お待ちください」。あれは参りますね。それで苦労したことが何度もあります。

岩波 :  我々は身体一般病院から患者を受け入れるということで、そういうシステムをつくることは恐らくこちらの総合サポートセンターがやってくれると思うんですが、身体科の先生たちはそういうのに興味をお持ちになりますかね。

奈良 :  興味を持っていただくように、背中を見せるというんですか、大変だけどおもしろいんだよ、やりがいがあるよというような、その場の雰囲気づくりというんでしょうか、職場づくりというのが大事だと思いますし、私も、苦しいんですけど、それを楽しいと思ってやるように心がけています。

岩波 :  現実には、認知症も含めて、精神症状のある方というのは今後どんどんふえる可能性が強いと思うんですよね。そういった意味では、より連携しなければいけないんですけど、先生方はお忙しいので、身体各科の先生方は最初から避けてしまうというんでしょうか、精神科関係はちょっとみたいな方も多いような気もしますね。

奈良 :  精神を治してから連れてきてください、身体がよくなったら連れてきてください。その両方を診ていますので。いつもそうです。

岩波 :  なかなかいいアイデアだと思うんですが、参加してくださっている施設の方々、都の方々、何かご質問、ご発言等あったらお願いしたいんですが、いかがでしょうか。石黒先生、何かご意見がありましたらお伺いしたいんですが、いかがでしょうか。

石黒 雅浩(東京都福祉保健局 障害者医療担当 部長。以下、石黒): 

 いつもお世話になっております。今日のお話をお聞きして、身体科の先生と精神科の先生のそれぞれの見方とか、そういったことにいろいろ違いがあったり、わかり合える部分もあったりというのがよくわかりました。

 私もどちらかというと精神科の側から見るほうが多いので、身体的なものが精神科病院での対応がかなり難しかったりすると、体がしっかり治ってからもとの病院に戻してくださいみたいなことが起きやすいのかなというのがあって、そこら辺のギャップは確かにあるんだと思います。その病院でどんな医療をしているかとか、そういったことを共通認識として持っていると、例えばどんな病院がどんなことをやっているかとか、身体科病院もそうだと思うんですが、そういう相互理解とか、どんなことをやっているかということをお互いわかり合っているとスムーズにいくのかなと思いました。

 精神科病院で体がいろいろ症状が出て、身体科病院に転院をお願いして、よくなったらもとの病院に戻るという関係。受ける側でも、体はよくなったんだけれども、また戻ってから悪くなってしまうんじゃないかという不安があったときに、ご相談できる身体科の先生との関係。逆も言えると思うんです。身体科の先生も、体が治ってある程度安定したら精神科のほうでまた受けていただけると、体のほうの治療として受けやすい。そういうお互いうまく循環できる仕組みづくりというのが大事なのかなと思っています。

 地域で顔の見える関係とか、いろいろな実際の事例を通してそういったことができる関係をつくっていくのが大事なのかなと思っています。感想みたいなことになりましたが、以上です。

岩波 :  ありがとうございます。今、新村先生から、ネット等を使った情報共有、IT的な情報共有という話が出ましたが、東京都でそういうのを実践的にやっているところは今ございますでしょうか。もしありましたら教えていただけるでしょうか。ネット等を使って精神科病院と一般病院が情報を共有する。

石黒 :  この事業でブロックでいま試験的にやっているところもいろいろあって、いろいろなやり方を試行錯誤しているところがあります。完全とは言えないんですけれども、そういった形を試行していこうというブロックもあります。

岩波 :  東京都全体としては、例えば都の合併症ルート等をそういう形でというところまではまだ考えておられないんでしょうか。

石黒 :  東京都としてということはまだ検討とかという話ではないです。各ブロックの事業と、東京都全体の合併症医療という事業、両方すごく大事な事業だと思いますので、今後どういうふうに発展させていくかとか、場合によってはネットを使ったりとか、SNS的なことを使っていくということも視野に入れながらというのは、検討していくことはあり得るかなと考えています。

岩波 :  ありがとうございます。このブロックで少し検討していきたいので、またいろいろご助言いただければと思います。奈良先生にもう少しお伺いしたいんですが、精神科という立場で救急病院に入られて、しかも管理者ということで大分ご苦労があったと思うんですが、スタッフが精神科患者を嫌がるというんでしょうか、回避する原因は一番はどういうところにあったようですか。

奈良 :  新村先生の講演でもあったように、確認行為のように同じことを何度も言ってくる。本来は横になって寝ていなければいけない時間帯にナースステーションの前に座り込んでいる。精神科単科の病院ではよくあることですよね。私は両方わかっているので。それだけでもスタッフは、そういった患者さんたちに嫌だなというような陰性感情を持ってしまう部分があるんでしょうね。

 また、救急車を何回も何回も呼んで、今回もう12回目だと、また来たんですかと。私は「そういうものなんですよ」と。そのたびに検査も何もしなくても、お話だけ聞いてあげて、内服薬も出さなくていいから、帰れるんですよと。それを対応してさしあげるということが大事だと思います。

 単科の精神科病院に勤めていたとき、当直していると、同じ人から。電話は医者がとらなければ。どこもそうなんですよね。それも夜中の3時に、「眠れないんですけど」。それをされるとこっちも眠れないよと思いながらも、それに対して「そうなんですね」としっかり聞いてあげるというようなことをスタッフに見せてあげないとだめなんですね。スタッフに背中を見せてあげる。アルコール依存症の患者が断酒している姿を家族にずっと見せ続けるということで家族も癒やされていくというような現象と同じだと思います。

岩波 :  奈良先生のコピーをたくさん用意しないといけないような気になってきました。

 そろそろ時間が近づいてきたんですが、真田先生のほうから何か質問なりあったらお願いします。

真田  :  奈良先生、今日はありがとうございます。僕は実は医者になって2年目の途中から、ここにあります東京都の立川共済病院(国家公務員共済組合連合会立川病院)というところで、いわゆるMPUという考えのもとに精神科医が身体合併症を主治医として診るという病院で働いていました。そういう視線で見ると、いろいろな単科の病院で困っていらっしゃる合併症の患者さんがいらっしゃって、単科で働いていると、そういう病院にお願いしないといけないというのは多々あるんですよね。

 そこは双方向で大切だというのは十分わかるんですが、その当時から僕はずっと思っているんですが、東京都の合併症医療自体があまり大きな転換がなくて、今はブロックごとにというのが新たな。昔はこれは多分なかったと思うんですが。東京都の人がいらっしゃるのであれですが、コストの部分でなかなか。多分、先生のところも合併症をやると赤字になるという、これが現状だと思うんですね。このあたり、東京都の人がいらっしゃるので言いづらいかもしれませんが、ぜひ奈良先生のほうから何かご意見をいただければと思います。

奈良 :  夜中に何回も電話がかかってきてそれに対応しても、それに対するものは何もないですね。とにかくヒューマニズムでやっているというようなことが現実です。そういったところをどうやってコスト的に評価するかというのは大変難しいことだと思っています。でも、誰かが始めてやっていかなければならないんだろうなと思いながらやっています。そうすると同じようなことをやってくれる人がふえてくるんじゃないかと思っています。

 こんなことを考えている先生も過去にいっぱいいらっしゃったでしょうし、今考えている方もいっぱいいらっしゃるんですが、現実に生活していかなければいけないですし、一般病院の管理者としては職員を生活させていかなければなりませんし、ベッドも上手に回転させていかないとだめなんですね。事務方は現実的で、「院長、こんなことをやっていたらだめですよ」といつも尻をたたかれています。いかに早く正確に治してさしあげるかなんでしょうが、なかなか難しいです。先生、ありがとうございます。

岩波 :  奈良先生、ありがとうございました。今日は新村先生、奈良先生から非常に貴重なお話を伺えたと思います。また、今後のシステムについての新しいアイデアも新村先生からお話があったので、ぜひ当院で実践して地域の連携を深めていければと思います。

 石黒先生を初めとして、ご参加いただいた先生方、どうもありがとうございました。そろそろ時間なので、これで終了したいと思います。今後ともよろしくお願いいたします。ありがとうございました。

清水 ちひろ(東京都福祉保健局 障害者施策推進部 精神保健医療課 (医療担当)。以下、清水 ):

 すみません。東京都の清水と申します。ごめんなさい。終了間際に申しわけない。ちょっとお話しさせていただいてもよろしいでしょうか。

岩波 :  はい、どうぞ。

清水 :  本日は心療科に携わる方からの貴重なお話をいただきまして、ありがとうございました。掲示板とかSNSを使ったりとか、現状はヒューマニズムになっているというお話は興味深かったと思います。

 東京都としては今、DXの動きがあったり、ペーパーレスとか判こレスとかいろいろなものがありますので、全体的には、できる限り、電話、ファクスではなくて、紙もなくしてという方向でいくという流れにはなっているんですけれども、医療現場に関しては緊急性が求められるという状況がありますので、なかなかそういったものが浸透していない状況です。

 烏山病院さんにお伺いしたいんですが、合併症の依頼とかというのを、今後、電話、ファクスではなくて、メールといいますか、PDFとか、そういったものにしていくというのは現場としてはいかがでしょうか。

岩波 :  伝達方法としてネットを使うというのは十分可能だと思います。今来ていただいている近藤さんとか、総合サポートセンターというところですが、電話で各病院から転院の依頼等を受けて、そこでまた医師に相談して。そこのところの伝達手段をネットを使ってというのは恐らく可能だと思います。

清水 :  わかりました。緊急性が求められる現場でどちらが速いのかとか、個人情報でセキュリティーの問題も当然ありますので、そのあたりを慎重に進めなければいけないと思います。

 時代に即した情報の共有というのはすごく大事な課題だと思いますので、この連携事業もそうですし、合併症事業もそうですし、よりよい方向に進めていければと思います。

 先ほど石黒の方からもありましたが、他のブロックでシステムを使って情報共有をしているところとか、ブロック内の身体科の情報、精神科の情報をガイドブックにしたりホームページに公開したりというところもあります。

 ヒューマニズムというお話がありましが、システマチックに情報を公開していける法制度が整っていけば、もう少し建設的に事業が展開していけるのではないかと思いますので、そういったお話をさせていただきたくご発言させていただきました。

岩波 :  どうもありがとうございました。いろいろ貴重なお話を伺えたと思います。今後とも、この制度の発展を、我々、あるいは協力してくれる先生方と進めたいと思います。本日はこれで終了いたします。

(終了)