2021年度 東京都地域精神科身体合併症救急連携事業『精神疾患対応力向上研修』①


2022年2月17日(木)18:21〜19:31 昭和大学附属烏山病院(WEB配信)

講演 新村 一樹 昭和大学医学部精神医学講座 助教

新村 一樹 (昭和大学医学部精神医学講座 助教。以下、新村):

 それでは始めさせていただきます。昭和大学附属烏山病院の新村と申します。地域精神科身体合併症救急連携事業に関してスライドをつくらせていただきました。

 まず自己紹介になります。私はもともと、昭和大学卒業後、臨床研修を終了後に、昭和大学藤が丘病院の外科に約10年在籍しておりました。平成30年4月より昭和大学附属烏山病院の精神科に転科し、現在、烏山病院に勤務させていただいております。

 外科10年、精神科4年の経験から、身体科視点の精神科、精神科視点の身体科についての私見と、昨今世の中を騒がしていますCOVID-19クラスターの現状について述べさせていただければと思います。

 

 地域精神科身体合併症救急連携事業というのは、精神科と身体科の合併症の患者さんを、身体科と精神科の医療機関の相互の連携体系を構築して、地域でしっかりと診て受け入れ体制を整備していきましょうというものです。

 それについては、身体科から見た精神科、また精神科から見た身体科はどういうイメージなのかというのを知っていただいたほうがわかりやすいと思いました。

 

 まずは、「身体科から見た精神科」です。正直、身体科から見ると、精神科の患者さんを受け取るというのは敷居が結構高いんです。

 そもそもですが、それぞれの科に入っているということは、決して精神科に興味があったわけではなくて、意思があって身体科に入局されているので、結構真逆の領域になるので、この部分に関しては取っつきにくさというものは持ってしまっていると思うんですね。ですので、精神科の患者さんへの接し方には、抵抗や、ちょっと不安とか、そうした感情を持ってしまうものです。

 精神科で使われている向精神薬とか抗精神病薬の薬剤は種類も多いですし、正直、苦手意識が強い身体科の先生の方がはるかに多いと思います。僕もそんな感じでした。少し抵抗のある領域であるのは間違いないと思います。

 

 私の経験上ですが、繰り返す過量服薬とか自傷行為とか、不定愁訴で一晩3回受診してくるとか、毎日受診してくるとか、そういったケースで非常に理解に苦しみました。「何で?」「また?」という陰性感情が湧いたことは多々ありました。

 また、認知症の患者さんに対しても抵抗感がありました。術後のせん妄とか、ドレーンをかみちぎられたこともありますし、引き抜かれてしまったことなどあって、いろいろな痛い経験をしてきました。そういう背景があるので、身体科の先生が精神科の患者さんを受けるとなると、そうしたネガティブな思い出というか記憶が呼び起こされるので、なかなか敷居が高くなってしまうものです。

 その結果、転院の受け入れ、もしくは救急の受け入れとなったときに、その後、「どうする?」「どうなる?」という不安がよぎるわけです。僕はいろいろな病院で当直をしてきましたが、精神疾患をお持ちの方の受け入れというのはかなり敷居が高くなってしまっていました。

 

 多種多剤の内服状況では、病名は何なの?これはなんのお薬?となってしまいます。そもそも精神科の薬を急に中止していいのか?とか、不穏になったときに何をどれだけ投与すればいいのか?というふうになってしまうわけです。どの科でも言えると思うんですが、自分の専門領域以外の薬剤の調整をするというのは、非常に抵抗があるんですよね。結果として、不安とか手間がかかるという感情がよぎってしまう。それは私も1度や2度ではなかったです。

 

これは平川病院様のスライドを一部引用させていただいたものになります。南多摩医療圏の一般科病院のスタッフにアンケートをとられました。

 

 せん妄のときはどうするのか、向精神薬の選択、うつ病患者の対応方法はどうすればいいのか、認知症・せん妄不穏のときの頓服の対応がわからない など、たくさんの質問が寄せられていました。それ以外にも、「認知症、うつ、アルコール依存、統合失調症の患者さんの疾患としての基礎知識がわからないので知りたい」「自傷行為を繰り返す方はどうやって対応すればいいのか」「担がん患者として来たときに、どうやって精神疾患をフォローしていけばいいのか」一般科のスタッフはかなり不安が内在しているというのが現状です。

 

 医者に限らず、看護師さん、コメディカルも含めて、身体科のゾーンにいる人たちからすると精神科領域というのはかなり敷居が高くなってしまうということです。

 医師のほうも、夜間・救急に精神科の方が来ても、何の薬を飲んでいるのかわからない、情報がなくて困る、身体治療を終わった後どうすればいいのか、どこが窓口になるのか、いつまでたっても退院(転院?)できないんじゃないのか、と不安になるわけです。また、これは僕も思ったことがあるんですが、早く転院をお願いしたいのに精神科病院はすぐに対応してもらえない、いろいろな病院に相談しても結構断られてしまうという現実です。これは、確かに僕も経験がありました。「転院を受けてくれ」となったら、送ってくるのは早いんだけど、その後は遅いんだよなと思っていたのは事実です。外科時代はそう思っていました。

 

 当院の場合は、身体科病院に転院を依頼するときには、状態が安定したら必ず帰院を受け入れる旨を診療情報提供書のところに記載するように指示させていただいております。また、精神薬は何を処方していいかわからなくなってしまうこともあると思うので、当院から転院を依頼するときには、受け入れ先に在庫があるとは限らないので、退院処方として2週間以上は持たせて、転院先に持っていってもらうようにしています。

 そのほかにも、頓服薬の使い方とか種類の選び方というのはかなり不安もあるということだったので、頓服薬もそれぞれ十分に持たせて転院を調整していきます。時間的に余裕がある場合は、備考・その他の欄を使って、何時間おきに何回まで使って大丈夫ですよ など、頓服の用法も加えるように僕は気をつけるようにしております。

 今後の改善策として、夜間、術後とか緊急処置後に精神面で困るようなことがあったら、「夜間の当直帯にご連絡いただければ対応させていただきます」というような文面があると、かなり敷居は下がってくるんじゃないかと思います。こういったところをしっかりと細かく、診療情報提供書とか、転院を依頼するときに身体科の先生に向けて伝えることがとても大事になってくると思います。

 

 次は「精神科から身体科へ」。逆に精神科の立場から見た身体科のイメージです。今現在、私は精神科が主になって4年たっています。当院の場合、精神科病院としては、検査ができる項目とか施設機能は比較的充実していると僕は考えています。血液検査はほとんどの項目ができます。ただ、BNPとか、D-dimerとかの凝固系は結果が出るのは翌日になります。17時までしか検査できないという縛りはありますけれども、日中であればほとんどの検査はできます。単純撮影のみですが、CTもできます。MRIもあります。心エコー、腹部エコー、頸動脈エコー、心電図、脳波、そのほか上部消化管内視鏡はできます。また、常勤の内科医が2名いて、他科専門医を有する医局員が3名いて、外科、救急、麻酔等そろっています。

 

 よって、当院の場合は、精神科単科の病院としては人的にも施設能力的にもかなり恵まれているほうです。精神科単科の病院でここまで恵まれている病院はあまりないんじゃないかと僕は思っています。

 こういった施設機能があればある程度の入院を受け入れることはできます。実際に、妄想性障害の方で、とある病院に運ばれてきたけれども開放病棟しかないので当院に依頼があったケースがありました。その方は、即日、保護室での入院になりました。先ほどもNTT東日本関東病院の先生もおっしゃっていましたが、希死念慮があると開放病棟では対応できません。精神状態にもよりますが、保護室が空いていれば、保護室が必要なケースでは、必ず受け入れられるような体制をとっています。

 

 ただ、いざというときに保護室があいていないとなってくると対応が難しくなります。この部分は身体科の先生方には理解していただきたいところではあるんですが、精神疾患にもよりますが、衝動性からの爆発力というのは、正直、身体科の先生の想像を超えるものがあります。精神科にきて4年ですが、自分の10年間の外科生活では味わったことのない痛い経験もしました。。

 

 状況によっては、保護室から精神科の医療が始まるケースがあるのです。保護室があいていないと、患者さんの生命を守れないかもしれない、危険にさらすかもしれないということで、受け取れないという背景があるんです。保護室があいているか、あいていないかというのは、身体科でいうと、ICUや救命のベッドが満床なのに重症をとれますかという話になるんですね。保護室がなくてどうしてもとれないというのはそういう意味なんだということを、できれば身体科の先生にはわかっていただきたいなと思います。

 

 今、当院の流れの中で当院の状況について話させていただきましたが、これは施設能力がそれなりに備わっている当院の場合の話であって、精神科単科の病院で主に慢性期の病院だと、いろいろな検査ができなかったりするんですね。そうなると、いろいろな患者さんを受け取るというのもなかなか難しいですし、状況によっては受け取れないということもあります。CTもレントゲンもなかったり、血液検査は全て外注で結果は翌日とかになってくるとなかなか難しい。

 

 先ほど言いましたように当院は施設能力はありますので、送った後に受け取るというキャパシティーは比較的あるほうだと思うんですけれども、送った後が大変になってしまうような施設もあるというのも身体科の先生にはわかっていただきたい。

 また、そういった病院の場合、身体科の医師がいないとか、いても非常に微妙という現実も正直あるんです。絶句するレベルの医師の話も聞きました。医局員の後輩からそうした病院の施設の話を聞くと、自分がいてもやれることは限られるなと感じるような話を聞きました。施設能力が備わっていないようなところだと精神科医が身体疾患を診るのはほぼ不可能だと思うので、送った後に帰院を簡単に受け取るのは難しいだろうなという施設もあります。受け取る際に相手方の精神科病院のホームページを見て、どういった検査ができるのかとか、何科があるのかというのを調べておくと、どういった状態で返せばいいのかというのがイメージできると思います。

 

 身体科病院の先生方には申しわけないのですが、送り元の病院の施設能力によっては、相当整えた状態に持ってこないと、相手方は引き取るべきと思っていても、引き取れないということもあります。

 また、身体面の管理という意味では、スタッフ能力も含めて、身体科の総合病院と比較すると差が大きい施設もあります。これは都内の病院ではないんですが、僕が聞いた話だと、心電図を指示したら、心電の電極のつけ方がわからなくて、本を見ながら貼っていたというのを聞いたこともあるので、そういった医療格差というのは現実問題としてあるんだと思います。

 

 次は「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)』というところを話させていただこうと思います。ここまでは、一般的なパターン、身体科から見た精神科、精神科から見た身体科、特に身体科の先生に伝えておきたいことを話させていただきました。次は、蔓延してどうしようもない新型コロナウイルス感染症について話させていただきます。

 幾つかの精神科病院でのクラスター発生は記憶にまだ新しいです。閉鎖病棟では必然的に「密」になりやすく、クラスターが発生しやすいという現実があります。精神科の患者様はマスクを徹底することは非常に難しくて、飛沫が飛散しやすいというのもあります。

 当院で生じた転院までに時間を要したケースがあったので、ここで紹介させていただきます。75歳、女性、統合失調症の方で、ワクチンの接種歴はあります。病歴としては、平成16年に統合失調症を発症。平成16年と平成20年に入院治療歴があります。平成29年10月から医療中断、自己中断するような状態で、令和2年9月から幻覚妄想状態が増悪して興奮状態となって、同年10月より当院で入院治療を行いました。薬剤治療(薬剤調整?)に非常に難航して、令和3年5月よりクロザピンという抗精神病薬を開始し、漸増、漸減などの微調整を行い、徐々に病状は安定しつつあった方です。

 

 X月13日に同室者が新型コロナウイルス感染症と診断されました。本人は翌14日のPCRでは陰性だったんですけれども、16日に発熱し、38度まで上昇し、抗原検査にて陽性を確認しました。

 17日のその日の時系列になります。朝の7時の時点で38度8分です。Sat自体は91%まで低下していて、脈拍は102、つまり結構苦しいんじゃないかというところです。

 振戦もあり、顔面紅潮、つじつまの合わない言辞も観察されています。まずはカロナールを内服しています。そして8時52分に東京都合併症ルートへ手続をとっています。9時半ごろから、まだ発熱は続いていますが、咳嗽、痰の増加、むせ込みがかなり見られるようになりました。この時点ではサチュレーションは94%あってレートも86と、バイタルのほうは何とか維持されているような状態でした。

 ただ、その日にとったラボデータですが、WBCが2万、CRPが4.42となっているんですね。CKは2336、この部分は恐らくシバリングによる影響でつられて上がってきた項目だと思います。ここまでの数字に上がってきてしまうと、当院でも夜中も採血できないという状況下で診るとなるとちょっと厳しくなってくるのかなと思います。

 また、酸素需要も必要とする一歩手前になってくるので、酸素需要が必要になってくるような感染症というのは、僕は精神科単科の病院で診ていくのはリスクが高いと考えています。挿管できるわけでもないですし、その後の人工呼吸器があるわけでもないという意味で、最後の砦がないから、その状況で診るのは危険と、僕は考えました。採血結果では炎症反応が強かったので、すぐさま系列附属病院に相談しましましたけれども、ベッドがない状態だったので転院ができなかったんです。

 15時ごろになって、多少苦しいんでしょうね、侵襲もあるので頻脈になり、熱は39度に達しようとしています。痰絡み、顔面紅潮は変わらず、ほぼせん妄状態になっています。都の精神保健医療課のほうに進捗の状況を確認すると、当時も病床が逼迫していましたので受け入れは困難だということでした。他院に直接当たったんですが、受け入れも困難ということで、コロナ調整本部に相談するようにというアドバイスがあり、相談することになりました。

 こういった相談の調整をしている間にCTを撮ることになって、両側の肺野に末梢側有意の活動性のすりガラス状陰影を点状に確認できました。新型コロナウイルス関連の肺炎がもう起きているということが画像上も確認できたわけです。この状態でいくと、ほぼ酸素需要を有する状況になってきていますし、本来だったら中等症Ⅱになってきてしまうような段階なので、これは当院では対応はできないなという案件ではありました。

 その後、保健所経由で新型コロナウイルス感染症の夜間(入院)調整窓口より電話がありまして、転院の光が差し込んだわけです。ただ、そのころには、痰が貯留して、サチュレーションは88%へ低下して、酸素投与を開始しないといけない状態で、かなり重症化してしまいました。20時半に転院可能となり、同日転院されました。これは発症から約丸1日かかってしまったような症例になります。

 この症例は、転院先のほうで中等症Ⅱ(新型コロナウイルス関連肺炎中等度Ⅱ)ということでレムデシビル投与とデカドロン内服を行って、全身状態は改善し、発症11日後、当院に帰院されました。

 この症例を振り返ると、あの時点で転院が成立しなかったら当院で診切らないといけない状況になっていたわけですが、その結果はかなり厳しい結果になったと思います。

 

 今回、転院が困難になった理由としては、内服薬も寄与しているのではないかと僕は推測しています。

 クロザリルというお薬は登録医療機関所属の登録医でないと処方できず、処方できても2週間までだったと思うんですが、かなり縛りが強い薬剤です。送り先でもそれなりの精神科機関所属でないとできないということなので、これが結構ハードルを上げてしまったのかなと推測しています。当院でもほかの患者様でもクロザピンを内服している方もいますので、今後も同様のケースが生じ得るだろうなと懸念されました。

 

 そこで、とりあえず新型コロナウイルス感染症の対策というものを講じてみました。簡単に言うと、とある行政のガイドラインを引用させてもらいながらですが、重症化因子を挙げたり、中等症の分類の仕方とか、治療法とか、注意点であるところを書いて、当院で診切らないといけないとなった場合の対処を記載したものをつくらせていただきました。

 

 文章だけだとわかりづらいので、フローチャートを作成しました。また、内服薬ですが、当時、ラゲブリオは依頼して翌日に届く、ゼビュディは依頼して翌々日に届くという状況でした。(ゼビュディは今は翌日に届くようになっています。)ステロイドもデカドロンということだけれども当院にはないので、手元にあるプレドニンで代用できるな 等と薬剤の在庫状況の把握を行いました。

 あとは、当院は、閉鎖的環境なので転院が基本路線ですが、どうやってゾーニングをするのかを想定しながらやっていました。

 

 これは当院の該当病棟の見取り図になります。この時点ではまだクラスターではないんですが、2月1日に3名出てきました。3名の方を移しました。黄色になっている部屋は、コロナが出た部屋ということになります。

 その翌日に新たに2名が出ました。同日、4名の方はすぐに転院が決まりました。

 2月3日、一気に8名の患者さんが陽性と出てしまいました。これらの部屋です。

 2月4日の時点でも2名出る。どんどん出ていくんです。

 2月5日、今までコロナの患者さんが出てこなかった部屋でも出てくる。この時点で、こっち側(病棟見取り図の右側)のほうでなるべく勝負したいなと思っていました。ゾーニングを想定して、なるべくこっち側にずらしていくという形で患者さんを動かしていきました。

 

 その後も、中等症Ⅱの方が出て、すぐに転院していただきました。また、個室管理をしていたにもかかわらず、1名の方は陽性が確認できました。別室のほうでも、今まで出ていなかったところからでも出てきてしまう。医療者を媒介にしている可能性も示唆される状況になっていました。

 

 2月9日の時点で、ほぼこっち側(病棟見取り図の右側)に陽性患者をまとめるような形にできました。このころには既にゾーニングとして何をするかというのを決めていて、後で出しますが、机とかをうまく使って、視覚に訴えるようなゾーニングをするようにしました。それでも、9日の時点でも、今まで出なかった部屋からも出てしまいました。いろいろとシャッフルしたわけですが、結局ほぼ全ての部屋から出てしまったということになります。

 最後に感染者が出たのは2月9日ですが、2月12日の時点で3日間新規感染者なしという状態になりました。

 

 感染拡大の要因です。全ての部屋から出てしまったというのは、オミクロン株の感染力の強さ。潜伏期で無症状でも2日ほどで感染させてしまうということも言われていますので、それも要因であったと思います。オミクロンに関しては、マスク、フェイスシールドをしていてもクラスター発生の報告はあります。今回、我々も、個人防御のPPEが破綻してしまったということで、スタッフを媒介にした感染もあった可能性は十分あると推測されています。

 

 認知症病棟ではマスクの着用を徹底できない。患者同士が密な距離になる。隔離の協力ができなくて、病棟内を徘徊してしまう。認知症病棟だと、清潔ケアも含めて、どうしてもスタッフも患者さんと密な距離、密な時間を送ることになるのが避けられないという現実もあります。蔓延していく中で、病床の逼迫もあり、転院が滞ってしまいました。

 

 たしか2月7日以降は全ての転院がとまってしまって、当院で全部診切るというような状況になりました。そうなるだろうなと思って、ゾーニングを想定していたのですが、想像以上でした。その結果、管理制御、工学的管理、置換、排除も破綻してしまったわけです。

 

「制御の階層」というところでいくと、一番効果が高いのはもちろん排除になって、効果が低いのはPPEになります。そもそも排除と置換の究極は隔離と転院だと思うんですけれども、個室には限りがありますし、転院も困難な状況なので、対応能力を上回っていました。

 工学的管理としては換気や仕切りとなります。換気を行いましたが、パーテーションなどで仕切るのは当該病棟では非常に困難でした。

 管理制御も、僕たちのPPEも破綻しましたし、患者同士の距離、マスクも保てなかった。全ての階層がうまくいかなかったというところが現状です。

 そこで、途中からうまく患者さんを分けることができたので、これはナースステーションの正面ですが、机をこういう形に並べて、視覚に訴えて、なるべくこっちに来ないでねという形にしました。この部分にもテーブルを置いて、必要物品とか、パソコンとか、あと、こういったところにもいろいろな資材を置いておく。感染ゾーンで使う資材とナースステーションをうまく区切る。そうした形で出丸方式をとらせていただきます。加えて、フルPPEを導入しました。

 

 こうした対策を練った後に、週3回のPCRの施行を続けて、無症状陽性者の洗い出しを行って、早期の発見、隔離を行いました。それは、排除、置換に値すると思います。

 ナースステーションを本丸に見立てて、机を用いて出丸を作成して、それらを分けるような形にしました。陽性者のみの対応として、陰性者と接触しないように工夫して、管理制御を行いました。陽性者専従の医師を1人固定することによって、それも管理制御となります。

 机を利用したゾーニングと、換気を徹底し、かつ陰性患者がまとまっている部位が風上となるようにして、工学的管理を行いました。この部分をより徹底したことで、5日間ほど新規感染が出ないような状態でいけました。これは出丸方式のやつです。こういった形で机を並べていって、患者さんが入ってこないようにしました。

 

 ところが、5日間、新規発症がなかったところで、新型コロナ陽性が出てしまいました。この患者さんは、2月9日、2月11日、2月14日のPCRは陰性だったんですけれども、2月16日に発熱して、抗原陽性ということが確認されました。この時点では、治療が終わった患者さんが、前々日の2月14日から、5名、2名、2名の順番で戻ってくることが決まっていたので、少し転室を焦っていたというところはありました。この患者さん自体は5日間以上ずっと陰性だったので、症状もなかったので大丈夫だろうとは思っていたんですが、ここでそうしたことが起きました。今のところ、その方以外は出ていないんですけれども、現在もまだクラスターの制御を行っている状態で、クラスターというものを初めて経験している状態です。

 

 今回、病床が逼迫している中、転院をお引き受けくださった病院の先生方には大変感謝していますし、精神科病院での感染コントロールの難しさを痛感しました。

 国立感染症研究所の報告によりますと、濃厚接触した場合のオミクロン株症例の発症間隔の中央値は2.6日、

99%が5.4日ぐらいで症状が出るそうです。8日で100%ということなので、はっきり言うと、今回、確率でいうと1%ぐらいの状態の方が、それだけの潜伏期間を置いて発病してしまったということです。この1%の事象にいきなりぶち当たってしまったので、これをどう解釈し、受け取るかで、今後の隔離期間とか帰院までの日数の判断が変わってくると思います。受け取り側の病院の体制が整っていない中で帰院を受けると、当院で起きたことが、今後他院でも生じる可能性があるんじゃないかということは今後も危惧されます。今後も新たな変異株が出現すると思われるので、精神科病院と身体科病院のより密な連携と情報共有が望まれると思いました。

以上です。ご清聴ありがとうございました。(拍手)

司会 真田 建史(昭和大学医学部精神医学講座 准教授。以下、真田):  新村先生、ありがとうございました。